Story

□落英繽紛
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霧雨魔理沙が、私の家の前で佇んでいる。

アリス・マーガトロイドは、自宅の玄関で固まった。


「…。」


これは何事か、と思った。
玄関前の小路に、アリスの家に左半身を向け、首から上だけがこちらを見る状態で、魔理沙が立っている。
因みに、玄関扉が彼女によって叩かれた形跡は無い。

今日は、数日前に頼んでおいた布地が手に入る日だった。時間を見て家を出ようとしたところ、不自然な様子の魔理沙に出くわしたという訳だ。

それにしても、家を出ていきなり何かありたげな人の姿があるというのは心臓に悪い。
当人はというと、扉が開く音でアリスに気付いたのか、目を合わせたまま、微動だにしない。


「き、」


そのまま五秒ほど見つめ合っただろうか、魔理沙が口を開いた。


「今日は、良い天気だな」
「…曇りだけれど」
「快晴よりは好きだぜ」
「私に、何か用?」


何せ、頭の中は少し奮発して注文した布地のことでいっぱいなのだ。
あの生地に赤の刺繍をしたら、きっと露西亜に似合うはずだ。ああ、アクセントに金糸を使っても良いかも知れない。ともかく、今日のうちに裁断まではしておきたい。
魔理沙と世間話をしている暇は、あまり無かった。


「…みを、」
「うん?」
「髪を、切って貰いたいんだ」
「髪の毛のこと?」


魔理沙は首肯した。
確かに彼女の前髪は鼻に届きそうで、少々欝陶しそうだ。
だが、一応こちらにも都合というものがある。


「いやよ。里のお店に行きなさい」
「それが、里には顔を出しにくい」


彼女が勘当同然で、里の実家を飛び出してきた話は聞いていたから。
ひょっとしなくても関係があるのだろうと思い、理由には触れずにいた。
話を聞くと、彼女なりに取捨選択を繰り返してここまで来たらしい。
アリスとしても普段から頼み事をしている手前、若干断りにくい。満月然り温泉然り。


――ごめんね、露西亜。
服を仕立ててあげるのは、もう少しかかってしまいそう。
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