Story

□星行乗車
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「なに?」
「いや、何か寒そうだなと思って…私にはミニ八卦炉があるし、」

そう言って、何でもないように、あの子は私の手を取った。




私と白黒魔法使いは、それはそれは高い上空を飛んでいた。
と言っても、私は彼女…霧雨魔理沙の操る箒に腰掛けているだけで、一人で飛ぶ時に比べ、魔力の消費は少ない。

そんな状況で、私が用意したお菓子を分けながら取り留めも無い話をする…それは、彼女流に言うならば、「打ち上げ」なのだそうだ。
どの辺りが「打ち上げ」に相当しているのかは全く謎だが、退屈凌ぎになっている事だけは認めてあげない事もない。

口の中で、最後の金平糖がさらりと溶けた。
私がお菓子に金平糖を選んだ理由は簡単。持ち運びが便利だから。
…なのだが、何となく、魔理沙は金平糖を好きなんじゃないかと思ったからでもあった。「段幕は頭脳」を座右の銘とする私には珍しく、根拠はなくて、ただ、何となく。
万が一嫌いだとしても金平糖ならばある程度の保存は効くので、帰ってから一人で食べても良かったのだけれど。
幸いにも魔理沙はそれに喜んでくれたようだから、私の判断は間違っていなかった。

私の家を出た時、眩しいほどに輝いていた星たちは、金平糖のように少しずつ、西の空に姿を消しつつあった。

「なに?」
「いや、何か寒そうだなと思って…私にはミニ八卦炉があるし、」

気が付けば、体温の高い手が私のそれを包み込んでいた。
今の時期、夜明けは最も冷えるのだ。

「アリスの手、冷たいな」
「そう?自分ではよく分からないのだけれど」
「ああ、そうか。じゃああまり変わらないのか」
「そんな事も無いけれど…」

私は、苦笑を零す。

正直に言ってしまえば、魔法使いである私の身体は恒温に保たれているから、手を繋ごうが繋ぐまいがあまり変化はない。
けれど悲しいかな、私はその行為がとても温かいものだと知っているから。

「ま、でも少しは違うだろ」

そう言って彼女…霧雨魔理沙はニッと笑った。
手を繋ぐこと一つで早鐘を打ち始める私の心臓とは裏腹に、彼女はさっさと箒の軌道を修正して、あの星がどうだから今日は茸の収穫がどうの、といった話をしていた。

「そうね」

本当は「少し」では無いのだけれど。
でも、今はこれで良いのかも知れない、と。
小さな魔法使いの手を握り返して、私は思ったのだった。



END
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