Story

□彼岸思慕
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執務に勤しむ上司の姿を前にして、小野塚小町は、彼女には珍しくため息をついた。

小町は三途の川の船頭として働き、久しい。だからこのどうしようもない疲労感は、その場所を幾度も往復したという肉体的理由では決してなく、もっと別のところにある。

小町はもう一度、目の前の上司の姿を見た。…相変わらず凄い仕事量と決裁の早さだと舌を巻く。この閻魔様にそんな事を言おうものなら、その舌でさえ直ぐに引っこ抜かれてしまいそうだが。
そして、小町は幾度とも知れないため息をつくのだった。

小町の悩みのタネ…それは、上司である四季映姫・ヤマザナドゥにあった。

上司である四季映姫の仕事量がここのところ増え続けているのは明らかだった。
ただでさえ、幻想郷という地域を担当する彼女は膨大な量の仕事を抱えている。それに加え、彼岸会が近い。

実際、彼女がこなす仕事量はその小さな容姿とは反比例していて、そんな事はないと理解してはいてもいつか倒れてしまうのではないかとハラハラする。

そこまで考えて、小町は小さく自嘲にも似た笑みを零す。
そう…四季様の仕事を持って来ているのは、誰でもない小町自身なのだ。
でも、仕方がない。それは小町に与えられた仕事であり、地獄が機能する為には不可欠なものなのだから。
だが、小町が運んできた魂を相手に格闘しているのは、他でもない、自分が最も尊敬し敬愛する四季映姫その人であることも事実。

だから、時々考えてしまうのだ。
なぜ、自分は船頭なんてやっているんだろう、同じ地獄の歯車の一部ならば、彼女を助ける事務の一つでもやれたなら、少しはこの気持ちも楽になるのでは…と。


「…まち、小町!」
「え、あ…はい、何でしょうか四季様」
「全く。人の顔を見てため息をついたかと思えば突然笑い出したりして…何か言いたいことでもあるのかしら?」
「え、いやそんな事は…」
「…。ならいいわ。嘘をついている様ではないようだし、持ち場に戻りなさい」
「はい、すみません」


情けない、と思う。
こうやって、自分はまた四季様の手を煩わせてしまうのだ。


「…小町、」
「すみません、すぐに次の魂を運んできます」
「そうして頂戴。次の魂たちが詰まってしまうわ」
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