Story

□星行切符
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空を、二人の少女が飛んでいた。

何とも異様な風景だが、しかしここ、幻想郷においては少女が空を飛んでいる様子自体は珍しいものではなく、可笑しいのは二人の組み合わせだった。

その二人は同じ魔法使いなのだが、身につけているのは片やモノクロ、片やパステルカラーで、一見した限りでは反りが合いそうにも無い。

一人は、青いワンピースに白いカーディガンを着た少女。赤いカチューシャから流れる金髪を面倒臭そうに時折払っている。

その隣を飛ぶのは、白いブラウスに黒のジャンパースカート、真っ白なエプロンを付けた少女で、箒に跨がり、被った大きな魔法帽を指で弄びながら相棒へと話掛けているようだった。


「一件落着だな」
「…。」
「アリス?」


するとアリスと呼ばれた少女は、少し目を伏せて、


「…ええ、そうね」


と呟いた。
話掛けた方…霧雨魔理沙は、少しだけ驚いた顔をした後、癖のある金髪を掻き上げて、アリスを見た。


「じゃあ、次は打ち上げだな!」
「え…」
「今夜迎えに行くからな、」
「ちょっと、魔理沙!?」


そのまま箒に乗って去ってしまった魔理沙を、アリス・マーガトロイドは唖然とした表情で見送った。
そしてその夜、彼女は本当にアリスの家を訪れたのだった。


「よっ!」
「よ、じゃないわよ。打ち上げ、って…こんな深夜にアテでもあるのかしら?」
「うん?ああ悪い、何も考えてなかった」


その返答に、アリスは眉を潜める。自分から誘ったんでしょう、という雰囲気が見て取れる表情。
しかし魔理沙は気にも留めない様子で、膝を折った。


「どーぞ、人形遣いさん」


そのままアリスに掌を差し出したかと思うと、いたずらっぽく笑う。
相変わらず読めない彼女の行動に、アリスはきょとんとした後、諦めたように息をついた。


「全く、」
「…何だよ」
「いいえ。振り落とさないでね?」
「ああ。今日は来客仕様だからな」


ゆっくり飛ぶぜ、と魔理沙は小さく笑い、そのまま穏やかに地を蹴った。

夏とはいえ、夜になれば気温も下がるし沢風も吹く。
魔理沙の箒が上昇を続ける度、二人を包む空気は少しずつ冷気を帯びるのだった。


「魔理沙、良かったらどう?」


そんな中、箒の後ろに座るアリスが取り出したのは、赤や黄や白に彩られた砂糖菓子。


「これ…金平糖か?」
「そう。あんたにぴったりだと思って持ってきたのよ」
「いただくぜ!」


アリスは蓋にしていたコルクを外すと、金平糖が入ったガラスの瓶を差し出した。
星を眺めつつ、時折金平糖で小腹を満たしながら、二人を乗せた箒は夜空を滑るように進んでいった。


「あら、もう最後ね」
「風も冷たくなってきたな」
「そうね…」


そう呟き、手に息を吹き掛けたアリスの白い手を、魔理沙の指先が包んだ。


「なに?」
「いや、何か寒そうだなと思って…私にはミニ八卦炉があるし、」


言いながら、魔理沙はそれが何だか言い訳じみていると感じていた。
それが何かはまだ確証が持てないが、段々熱を帯びる頬と触れた指先、それに早まる心音がその感情が普通でない事を知らせていた。
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