すとーりー

□その意味を知っていますか?
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「おや、 珍しい
お一人なんですか?」



後ろから声をかけられ 庭の見える縁側に座っていた青年が ぐいと体を反らせる

「俺はあいつの付属品じゃねーよ」

逆さまの視界に映る 金髪の少年が これは失礼しましたと くすくす笑う


よいせ と体を起こすと黒い青年は 黙ってあぐらをかき頬ずえをつく




「・・・・・ 何か 御用だったんではないですか?」


少年からは見えないが 青年の表情が曇った

ふ、と目を閉じ 眉間に皺を寄せる

鎮痛な面持ちで懐に手を入れると


    しゃらり。



緻密な細工の施された 美しいかんざし。
女性ならば多かれ少なかれ誰もが綺麗だと思うような


「彼女のところに行って来たんですか?」


彼女・・・・ それはこの黒い青年の想い人。
妖である事を明かせず お互いに想い合いながらも 彼らは通ずる事が出来ない

そして 彼女は籠の鳥。


籠の名は 『遊郭』












それは偶然。

偶然この地に来たばかりの彼は それと知らず一人色街に足を踏み入れてしまった

白粉の匂い 手招きする女達 欲望に満ちた男達


彼にとっては 初めて見るもの
狂った欲望の街。

人の欲望は妖さえ怖れさせる


逃げるように飛びこんだ庭。

そこに居たのは十を少し過ぎたくらいの禿(かむろ)の少女
(※禿・・・ 遊女の世話・雑用などを仕事とする 客をとる年齢に満たない歳の見習い)


突然の来訪者に驚きながらも 彼女は青年に声をかける


人間に良い印象を持っていない彼はびくり。と警戒する

彼女は 困ったように笑った

そして あやすように紡がれる言葉は優しくて 青年の表情は柔らかくなる







欲望の街に在りながら 尚も汚れぬもの




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