すとーりー

□紫水晶 ーあめじすとー
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「くすくすくす・・・。」





闇夜に響く笑い声。


薄い唇が楽しそうに孤を描く




「・・・・・・ねえ 駄目だよ?」


『じゃり。』





夜露に濡れた土が小さく鳴り 暗闇から声の主が姿を現す


追われる者に始めに見えたのは 細い足首。

着物の裾から覗くそれは あまりにか弱く感じさせる




『じゃり。』



次に見えたのは 白い肌と一つの紫水晶。

本来二つあるはずのそれは 片方しか認められない

もう一つがあるはずの場所には


「悪戯したらオシオキされても仕方ない・・・よ ねえ?」




余りに酷く焼け爛れたそこ

鳶色の髪に隠れ見づらいが 惨状だけは解る



追われる者は後ずさる。


大きく裂けた口に 灰の肌。
見るからに彼も人ではない。


俗に化け物と言われる彼ら
その名前で一くくりにされていても 個々は全く別のもの。
争う事など珍しくはない



この灰の色の妖は 偶然通り掛った若い妖を襲った。
元々そこは『彼ら』の縄張り
侵入者に制裁を。
それは彼らにとっては当たり前の事






彼らの不運は敵対心を彼に見せた事ではなく




『壊れた紫水晶を見てしまった事』





それは何よりも この隻眼の妖の狂気を駆り立てるもの

なにより恐ろしい記憶の産物なのだから。






彼の仲間の刃は 隻眼の妖の右目の布をかすめてしまった

ぱさりと落ちる竜胆色の布

さらけ出される凄まじい火傷。


しかし、妖である彼らには たいして驚くものでもなく 一体の妖がずいと前に出た




その妖の大きな声が聞こえぬように 白い指が己の茶色く変化した肌を撫でる






刹那、



『・・・・・・ねえ。俺 コレ嫌いなんだけど?』


無機質な紫水晶が冷たく妖達を見下した。







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