すとーりー
□鏡花水月
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「・・・・それを 何故私などに命じられたのでしょうか」
かこん。とししおどしが渇いた音をたてた
問われた人物は 背筋を伸ばし自分より幾分も小さい人物に答える
「我が主が 啓が暴れ馬をいとも簡単に捕らえ 鎮めたところを偶然にも目撃したからにございます」
それに・・・と一呼吸置く
「少々調べさせて頂きました」
かこん。 と静寂の中 ひときわ響く
日も沈み 暗い部屋の中 蝋燭の炎が蒼く鋭い瞳を映し出す
「失礼は承知の上」
訪問者は ほんの少し気圧されたかに見えた
が ぐくっと頭を下げる
「啓なれば 必ずやっ
地元の者達にも聞きましてございます
啓の腕前、人柄
あの山賊共を放っておけば 悲劇が続くばかりっ
恥ずかしながら私達にはどうにもならないのです
何とぞ ・・・・何とぞっ」
床に頭を擦り付けるかのように懇願する
このような得体の知れぬ者に此処までするとは 本当に自体は悪く、手立ても無いのだろう
そう 思った。
「 承知致しました」
小さなため息と共に 発せられた言葉
それに頭を上げ かたじけないと何度も礼を言う
「いえ ・・・・僕も気になっていましたので」
にわかに言葉と雰囲気が柔らかくなる
「・・・善は急げですしね」
にこりと笑い 立ち上がる
広い広い屋敷の中、いつまでも頭を下げる者だけが ぽつり残される
とても小柄なその人物は 白い法衣を翻し 夜の闇の中へと消えた
鏡花水月
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