ストーリー

□始まり
1ページ/3ページ





人形が逃げて数日目の事 追っ手は振り切ったものの傷を負い とある村の近くで倒れ込んだ
少し眠れば動けるだろうと半ば気を失う形で意識が遠退きかけた時













『あなたは天使様ですか?』




















顔上げると一人の少女がいた

彼女の胸元には十字架が握られていた





―――― ああ そうか 僕の髪の色
勘違いしてるよ
僕は神に造られし者ですらない



彼はこの時はまだ少年の姿はしていなかった

悲しげに微笑む青年
青年の怪我に気付く少女

二人にとって運命を変える出会いだった








―――― 彼が目覚めた時 そこは知らない家の中だった

「気がつかれました?」

声に振り返るとあの少女だった

「あの・・・」
「よかった さすがは天使様ですね
傷の治りもお早いんですね本当にいらっしゃるんですね」

傷口を見ると手当てがなされ綺麗な布が巻かれていた
嬉しそうな彼女になんだか悪くて

「僕は天使なんかじゃありません
こんな色の髪ですけど 只の・・・」

どう説明しよう
正直に『人形』と言っても理解できないだろう
人外の者だ
下手に怖がらせるような事はしたくない

「ああ 異人さんなんですね!」
「え? ・・・え・・と
まあ そんな物です」

間違ってはいない
『人』と『異』なっているのだから

「ごめんなさい 勘違いしてしまって」
「いえ 紛らわしい髪してる方が悪いんですよ」
「いえ そんな 髪の毛だけで・・・本当ごめんなさい」
「いえ 本当何とも思ってませんから」

誰かと普通に話すのは初めてかもしれない 人形に話し掛けてくれる人なんか居なかったから


「――― そう言えば 家の方は?
勝手に上がり込んでお嬢さんと話していては怒られてしまいます」

「・・・あ 居ないんです
もう」

「え?」

「・・先日 ・・・流行り病で」

「・・・すみません」


「あっ 気にしないで下さい 知らなかったんですからっ
ね?」

「ありがとうございます」

気を使わせまいと必死に取り繕う姿にとても好感が持てた
人同士の関わりとはこういう物なのだろうか?

「あの もう一ついいですか?」

「はい?」

「神様を心から信じてらっしゃるんですね」

「ええ 神様は全ての者を見捨てません
たとえ死してからでも 必ず救って下さいます」

「そうですね」

亡くなった家族の事だろう 必ず救って貰える

神様なんていないのに
僕の存在がその証明。




「・・あの 私怪我が治るまで居られないんですが・・・」

「あ すみません
お家に一人じゃお忙しいですよね」

「いえ そうじゃなくて
その・・治るまで手当てちゃんと出来ないんで ・・・その
ごめんなさい」

「・・え?」

「・・今 この辺りに広まってる病・・土地の神様が怒ってるんだそうです
だから・・生贄を捧げなきゃいけなくて・・・」

「・・・それって・・」

「・・・父や母を奪った病がなくなるならいいんですそれに 身寄りもありませんから
選ばれたのは当然です
ただ その怪我治るまで居られないんです
ごめんなさい」

「僕の怪我なんていいんですよ!
なんで そんな!
ここの土地神は病を振り撒いたりしていません!!」

「・・ありがとうございます
でも自分で決めたんです もう あんな苦しむ姿見たくないから
旅のお坊様の言う事だから間違いないんです
ごめんなさい

あ あなたも旅をなさっているなら気をつけて下さいね」

旅の僧。 何故そんな事を言ったのだろう
決して土地神なんかのせいじゃない もしそうなら僕には解るはずだ

・・・一宿一飯の為というところか


嘘でも僧が言う事なら人々は簡単に信じてしまうだろう ・・・なんて浅はかな

神に救われると信じたいわけだ

「それでいいんですか?」

「・・・ちょっと・・ 怖いです 本当は
でも 大丈夫です
死した後に神様が救って下さいますから

・・・それに 生きてここに居ても・・・・
・・生贄に選ばれるくらいですから・・・」








  「一緒に来ますか?」







自分でも驚く位さらりと言葉が出た
この人を死なせなくなかった

「今はまだアテはありませんが 少し離れればきっと安心して暮らせる場所があるはずです
僕もそういう所を探しているんですよ

僕が連れて行きます
一緒に行きましょう」

・・・って これ 勘違いされそうな言い方っ そういうつもりじゃなかったんだけどっ

恐る恐る彼女を見るとやはり頬を赤らめていた

・・・やっぱり
出会ったばかりの男とは言え今のは破壊力あったなぁ


気まずい雰囲気を破るように彼女の発した一言は

「ごめんなさい」

「・・あ・・」

「私を不憫に思って連れ出そうとして下さったんですよね ありがとうございます

でも やっぱり行けません
私が逃げたら病は止まらないでしょう
私は 大丈夫です
弱気になって話してしまって心配おかけしてしまって・・・」

「君が居たら 病はなくなると思ってるんですか」

「はい」

「・・それなら 僕にはもう何も言えません

ご迷惑お掛けしました」



「えっ まだ傷がっ!」

「大丈夫です 貴女も言われていたでしょう
治りが速いって
・・・天使様じゃなくてすみませんでした

ありがとうございました」










彼女の家を出てしばらくたった時

「おい そこのお前
言葉解んねぇのか
てめぇだよ 黄色い頭の餓鬼」

「・・・なんですか?」

ガラが悪いが只の村人か

「お前 あの家から出て来たよな?
あそこの娘とそういう仲なのかよ?
だとしたら手ェ引け ただとは言わねぇから
あの餓鬼は村の・・う わっ やめろっ!!」

衿を捕まれ廃屋の土壁に背をつけられた男が喚く
僕は胸に溜まる憤りに任せ片手で締め上げた男の衿に力を込める

「・・う・・がはっ」

脚が地面を離れ男はもがく
そして鬼のように殺気に満ちた僕を見 怯えた

ドサッ

「ひぃ! う ゴホゴホっ」
地面に落とされ 咳こむ男に仮面のような笑顔で言う

「心配しなくても大丈夫ですよ
もう 振られちゃいましたから」

まだむせながらも目を剥く男を無視し 村の外に向かって歩く
・・・本人の意思なんだ







―――――――――――


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ