ストーリー

□昔々
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昔々のお話。

一匹の穏やかな龍が人になった
平和に暮らしていた龍は一人が嫌で人になった
そして自分に驚かぬ人の娘と一緒になった

それはそれは幸せな毎日 そして子供が産まれた

――― 角を持った紅い眼の子供


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初めての我が子は可愛いかった 角を持って産まれたのは 間違いなく自分の血のせいだろう
人として生きるのは難しいだろうけど私達が守ってやろう 大事な大事な我が子だから



『守る』 と言ったものの 人々の目は冷たかった 
そして 恐ろしかった。

何処で聴いたのだろう 私達の子の事を知っていた


『角を生やした 化け物を産んだ』

初めて出会った 嫌悪と憎悪の目。
――― どうしてだろう
まだ産まれて間もない我が子は こんな中で生きていけるのだろうか?



そんな中 妻が二人目を身篭った

正直 喜びと不安が半々という状態だった 産まれて来る子も この子のように人に指をさされながら生きなればいけないのだろうか?



産声に心臓がどくん と鳴る

嬉しい もちろん嬉しい けれど・・・


不安は息子を見たとたん拭い去られた
 人と変わらぬ髪と眼の色 角もない

安堵と共に込み上げる喜び ただただ嬉しくて堪らなかった



しかし 周りは二人共異端の者として扱い 幼子に傷さえ負わす有様だった

ある日 一際大きな騒ぎが起きた
角を持つ息子が人を傷付けたらしい


元はと言えば いつものように眉をひそめ ひそひそと話をしていた人々だが それを聞きつけたよそ者が絡んで来たらしい

泥酔状態のその男は幼子に刀を向けた


『化け物退治だ』



あまり外に出るなと言っておいたのに それを守っていたのに どうして向こうからやって来るんだ

笑いながら刃を振り下ろす男に 何かが切れてしまった幼子は刀もろとも男を叩き伏せた

いつの間にか集まって来た人々から悲鳴が上がる
折れた腕をかかえ地面でのたうつ男の姿が尚も恐怖を煽る



自分のやった事に驚き 呆然とする小さな息子を抱え上げ 家の中に駆け込みガタガタと急ぎ入り口に棒をかける
――― 誰も入るな そっとしておいてくれ もう 関わらないでくれ!


あまりの異常事態に 怯えた目で見る息子に私がかけた言葉は


「―― 終わりだ」

絶望の余りに口をついて出た言葉は そのまま我が子へ突き刺さる


もう ここに居る事は出来ない 行く宛もない どうしようもない これからどうしたらいい
絶望の余り 怒りと言葉が止まらない

守ってやらねばならないのに それとは裏腹に発せられる暴言。


小さな小さな 息子の肩を掴み 紅い眼を見開き驚きに満ちた顔をする我が子に怒鳴り 罵りにも似た言葉を浴びせる

解っているのに止まらない この子は何も悪くない


次の瞬間 身体に衝撃を受け倒れ込む
何か解らぬまま自分から溢れ出す真っ赤にな物に気がついた


目の前の我が子は力が抜けたように座り込み 父親の血に染まった小さな手を震わせている

傷付けるつもりなどなかったのは解っている
ただ 怖かったのだろう
あの男に斬られそうになった時のように

ただ 自分の身を護ろうとしただけ 力加減が出来ないだけ 振り払おうとしただけ

まだお前は幼いから

そう声をかけてやらねばならないのに口から出るのは苦しげな息だけ

どうしてこうなったのだろう



ドンドンと音がし 半端に扉にかけられていた棒が倒れる

そこにいたのは妻だった
人々は恐怖で近付く事すら出来なかったようだ


母親の悲鳴にも似た叫び声に 我に返った小さな『鬼』は 弾かれたように外に走り去った

動く事すら出来ず ただただ自分の弱さに涙が流れる
子の一人すら護れず責めた
どうすれば良かったのだろう


だんだん遠くなる妻子の声大丈夫私も『化け物』だ
命を落とす事はないだろうもう一人の息子に微笑んでみせた

また涙が流れて
無力感の中 意識を手放した



_______
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それから しばらく後
遠く離れた山村に『子鬼』が出るという噂が立つ

人々は 山道で襲われただの喰われた者がいるだの怖れたが 山で迷子になった小さな少女はこう言った

「怖くなかったよ?
ちゃんとわかるとこまで連れて来てくれたもん
迷子で泣きそうでいっぱいお話したの
家帰ったら おいしいご飯たいて貰うから大丈夫だよって
もうすぐ お祭りだから楽しみなんだよって
そしたら 「ふーん」って

でね お祭りに呼んだけてもいいかなあ?
お祭り知らないんだよ きっと。」





――― 子鬼が人と笑い合えるのは まだまだ先のお話。


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