ストーリー

□始まり
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―――――――――――
それから数日後
僕らは 山一つ越えた森にいた

彼女はもう村には戻れない 僕について来てくれた

僕が謝ると構わないと言ってくれた
貴方は助けてくれたのだから と



子供と女性の2人連れでは物騒だから元に戻った

彼女は不思議がり何者なのかと尋ねる

話さない訳には行かないだろう
でも怖かった


僕の心配をよそに彼女は

「だから金の髪なんですね」と笑った
びっくりしたけど納得した と。
それから 「貴方は貴方だから」と赤くなって俯いた


何百年 いや何千年かもしれない
ずっとこんな感情知らなかった

人形は人になれるんだろうか

なれるかも知れない こんな幸せをくれる彼女がいれば
















あれから二、三ヶ月

僕らはふもとに村の見える山小屋で暮らし始めた

彼女の十字架は綺麗に光っていた





ずっとずっとこんな日が続いたらいいのに

幸せに浸っていた僕は近づいてくる気配に気づけなかった





――― おい あれだ
あの餓鬼共だ!

――― もう一匹ちっせぇのがいるはずだ 探せ

――― あの餓鬼達のせいで 俺らの村は・・・
苦しんで死んでった奴らの為にも 許せねぇ!

――― おい まてもう一匹探せって   おい!!






「たまには 甘い物でも買って来ますね」

「いえ 僕はそんな贅沢しなくていいですよ
ふもとまで行って一生懸命働いたんですから ご自分の為に使って下さいよ」

「そうですか・・・じゃあ 私が食べて貰いたいからお団子買って来ます」

「え? あ ・・・それじゃお願いします」


いつも通りの彼女の優しさがとても嬉しかった

でも今度は幸せに浸る事はできなかった




耳に飛び込むやたら大きな音

それと共に彼女は倒れた
僕の目の前で。

倒れ行く瞬間はとてもゆっくりに思えた



僕は彼女の名を叫び抱き起こそうとした




   なんて事だ

彼女は小さな口から血を吐き 身体から紅い液体が溢れ出て来る

なすすべもなく 彼女を呼び 抱きしめるだけ







「・・・お前らが悪いんだ」

声の主をとっさに睨みつける

「お前らが儀式を壊したから 病が村中に蔓延したんだよ!
生き残ったのは俺達 たった2人だけなんだ!!」





だからこの人を?
祟りなどありはしないのに?


「―― お前らの事なんか知るもんか
なぜ彼女を苦しめる?
なぜ彼女一人に押し付ける?

お前達は絶対生きて帰さないっ!!」



戦闘と殺戮の為に造られた人形の殺気に猟銃を持った二人はその場にへたり込む

ガタガタと震える二人に向かおうとしたその時

「や・・めて下さ・い 」

僕の袖を掴み 彼女は必死に続ける

「優しいあなた・・が人を殺すと・・・ころ見たくな・・い」

咳込み 血を吐く
喋るなと目に必死な僕に彼女は続ける
「わたしは自分の生きたい・・生き方ができました
あなたのよう・・に あなたのお・・・かげで・・」

足元の土に血が流れる

「喋っちゃ駄目だ!」
僕の声にはもう涙声が混じっている

彼女の真っ赤に染まった手が涙で濡れた僕の頬に触れた

彼女は微笑んだ




「ありがとう」





頬にあてられた手が落ち 彼女の身体からがくんと力が抜けた






「い 嫌だ 嫌だよ 嫌だ


 嫌だあああぁぁっ 」












動かぬ身体を抱きしめ 泣き崩れる





彼女はもう笑わない
彼女はもう話しかけてくれない
彼女はもう目を覚まさない

初めて楽しく話をした人
初めて笑いかけてくれた人

初めて愛してくれた人
初めて愛した人






彼女を抱きしめ泣き続けた



――― 僕が連れ出さなければ良かったの?―――











―――――――――――

次の日 猟銃を持った二人連れがあの少女の亡きがらを抱き歩く人物を見かけた

しかし それはあの青年ではなかった
青年によく似た金の髪の あの儀式を壊した少年だった


少年は動かぬ少女を悲しげに愛おしげに抱え 二人に目もくれず去って行った












君は本当に幸福だったのかな
君は優しいから


僕はね しばらく子供の姿で居ようと思うんだ

君と一緒にいた僕は子供だったから

あまりにも子供だったから




本当に子供だったから
























遠くで小さな泣き声が聞こえる

ああ あの辺りは盗賊が出るとか噂が・・・





一人で泣いてた小さな子供
親ごさんを亡くされたんですか?
何も答えてくれませんね
人が怖いんでしょうね
長い間 一人でさ迷ってたんですね















「一緒に来ませんか」







その子は驚き顔を上げた



『一人は 誰でも寂しいですから』








あれからどのくらいたったかな?


今は
君がくれた優しさを誰かに分けてあげたい




.    fin.
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