ストーリー

□始まり
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あれから数日後 僕はまだここに留まっていた

村人の話を盗み聴いて 贄を捧げる儀式が今日だと知ったから

儀式の内容も知った
あまりに血生臭い儀式


彼女も知っているはずだ
怖くて当たり前だ



と言って 僕にどう出来るのだろう
僧の言葉が嘘だと証明など出来ない
彼女は自分で犠牲になると言う

――― 無駄なのに
自己犠牲なんて美しくもない
自分が生きたいが為に 他人を差し出すくだらない人間達が喜ぶだけなのに





『彼女が望んだ事だから』

ここ数日 村の近くに潜みながら考えていた

あの笑顔がまた見たい
あの人に笑っていて欲しい出来るならあの人の側に

人形の僕には解らない
こんな感情は知らない
そんな感情があるのかさえも




彼女が望むなら見届けよう

そうすれば この感情も消えるはず



あの村人に顔を知られているから 騒ぎにならないように髪を隠そう

そして念の為・・・
秘術によって造られた人形だから出来る事
自分の姿を変えられる事



子供になれば充分だろう

















村の人間が集まる祭壇
喧騒の中 簡易な巫女装束に身を包み彼女が現れる

その血を捧げる為の祭壇へ
ゆっくりゆっくり歩いて行く


胸が締め付けられる思い
僕には心臓なんかないのに
気を取られて 被った布から少しの髪がこぼれたのに気が付かなかった



時折雲に隠れる日の光に何かが光る
歩を進める彼女は見覚えのあるその光に思わず立ち止まる

『・・・・!』

目があった
彼女が驚きに満ちた眼で見つめるのは僕の髪

でも今の僕は子供のはず
解るはずがない



「――― どうして 来たんですか?」

『!!』

「村の人が あなたを探しているんですよ
捕まったら どんな目に合うか!」


驚いている暇も無く村の男達が怒声と共に人混みを掻き分けて来る

口々に 何故続けない 儀式が汚された 等と怒鳴りながら




「え?」


差し出された手に彼女は驚き

真っ直ぐ僕の眼を見 手を取った


僕は彼女の手を引き 抱え上げその場から逃げ去った
子供とは思えぬ身のこなしと力に村人達は驚き 逃げる事は簡単だった




僕のエゴでいい
この人だけは死なせない






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