短編

□狂気の化身とキスの格言
1ページ/2ページ

どこかで聞いた覚えがありませんか?


手なら尊敬

額なら友情

頬なら厚意

唇なら愛情

瞼なら憧憬

掌なら懇願

腕と首なら欲望


そのほかは・・・狂気の沙汰


「だったら俺がキスをするのはそれ以外の場所が相応しいだろ?」

そう言って狂気の化身である彼、クレイジーは指先、こめかみ、鼻先、口角、目の端、手首、胸元

とわざと外した場所に口付けていく。

「・・・ん・・・」

「なんだ?不服か?」

「そういうわけじゃ・・・」

物足りない、などと言えなくて。

「その割には物欲しそうな顔に見えるがな・・・」

口付られた場所がじんわりと熱を帯びる。
好きと恥ずかしさの間で感情が交差して、頭の中はぐちゃぐちゃになる。

「形無しだな」

そんな私を嬉しそうに見つめて何度も口付け、紅の痕を残す。

その何もかも見透かすような瞳と私の視線がぶつかり、私はその居心地の悪さに耐えられずに目を

逸らすと、彼は眉を顰めてその左手で私の顎に軽く触れ上を向かせ、再び視線が合う。

「なんで目を逸らす?」

「・・・心を読まれてるような気がしたから・・・」

私のクレイジーへの好意も、昂って止められない感情も、痴情も。

そう伝えると、彼はにやりと笑って私をその場へ組み伏せ、またひとつ、ふたつと口付を落とす。

「・・・ん、」

そして彼は私の唇に、何度もキスをし、首、胸と順番にキスをしてまた私の目を覗き込んだ。

「・・・狂気の沙汰じゃ、なかったの?」

「もちろん。・・・だが、名無しさんがあまりにも可愛いから、狂気だけでなく愛情も、欲望も・・・止められない。」

そしてクレイジーはその美しい瞳を細ませ、口元を妖艶に歪ませた。

その表情に私はまた降ってくるであろうキスの嵐を予感し、静かに目を閉じた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ