短編
□「I love you」 「yours」
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『知っていますか?下界の日本という国では、月が綺麗ですね、という告白の言葉があるそうですよ』
いつだったかパルテナ様がそう言っていた。
『・・・そんな遠回しな言葉で通じるのかなぁ』
『日本人は奥ゆかしいですからねぇ。はっきりしない性格、とも言いますがね。ちなみにそう告白されたら、死んでもいいわ、と返すのが定番だそうですよ。』
僕は月を見上げながらそんないつかの日の会話を脳裏に浮かべていた。
今日は屋敷でのお月見。今日は中秋の名月、だとかで、マスターがお月見を開いたのだ。
新しいメンバー達も迎えて、例年より一層騒がしくとても風流とは言えなかった。
お月見団子の早食い勝負をする人達。
七夕と混同しているのか、そこらへんにあった木に短冊を吊るす人達など。
その中でも周りに人が絶えない人がいた。
・・・僕の想い人
新しいメンバー達にも名無しさんは人気で、またライバルが増えてしまったのだ。
「・・・はぁ」
「どうしましたか?ピット。」
「パルテナ様!いえ、別に大したことでは無いのですが・・・」
「あらっ顔に書いてありますよ?名無しさんが誰かに取られないか不安だよ〜って」
「えっ!えっ」
「・・・ふふ、冗談です。」
焦りながら顔をペタペタ触る僕にパルテナ様は笑った。
その様子を見て僕はふぅ、と軽くため息をついた。
「そんなに気になるなら名無しさんの所へ行って来たらいいのではないですか?」
「む、無理ですよ僕なんかが・・・」
「随分と自信がないのですね。いつもは、はい!頑張ります!って可愛く返事をするのに」
「う、嫌な事思い出した・・・・・・だって、名無しさんと話そうとすると、恥ずかしくて・・・うまく話せないんです。」
そう言うとパルテナ様はくすくすと笑いだした。
「ピットらしくないですね。ただ一言好きだと伝えればいいだけなのに。」
「そ、そんな。だって、それで振られたら・・・その」
「当たって砕けろ!ですよ、ピット」
「砕けたくないです・・・」
「・・・砕けたくないなら遠回しに告白して反応を見ればいいのですよ。」
「遠回しって・・・・・・」
そういわれて思い出したいつかのパルテナ様との会話。
こんな月の綺麗な夜なら、口に出しても不自然ではない。
「・・・・・・でも」
「不安ならば私が背中を押してあげましょう。ピット、あなたに奇跡を授けます。」
「奇跡・・・?」
「ええ、その名も、少しの勇気が出せる奇跡です!」
「・・・そのまんまですね」
「わかりやすくていいでしょう?ほら、えいっ!これであなたに奇跡がかかりましたよ。さあ行ってらっしゃい」
そう言ってパルテナ様はウィンクをして僕の背中を押す。
何か変わったようには思えない、でも
ほんの少しの勇気が僕の中に芽生えた気がした。