「Line」

□嬉しいあとには
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待つ、とは行っても少し暇だった
海沿いで朝は特に冷えるので、外に出るのは控えたい
街に行く日でもないので、お菓子を作りすぎるわけにもいかないし
部屋も店も掃除は済ませてある



















いまだかつて、こんなにも暇だと思ったことがあっただろうか?

ふと、そんな考えが浮かんだ

暇つぶしには丁度いい、と考え始めれば止まらない

きっと沢山の人と関わってきたせいだろう
学生時代は、成績やら部活やら進学やら生活やらに追われていて人との関わりなんてバイトくらいしか無かった筈だ
そのバイトもあまり人に関わるものではなかったけれど

学校では――――やはり部活か。
二つほど掛け持ちで中学時代からやっていたが、部活時間が終われば飛ぶようなスピードでバイトだったから、先輩後輩同級生と話す余裕もなかったな

家では勉強とか内職とかで溺れてた。兄さんからよく手紙とか電話とかきていて、対応もそれなりに記憶してる

趣味の時間は寝る前の二時間だけ。とにかく買い貯めたり貰ったりした本を読み漁ったっけ



思い出し笑いをしてしまう。

「いま部屋にある本も、ずいぶんあるなぁ」
思い出すように口に出す。部屋の一面…いや二面くらいを覆う天井まである本棚を思い出した

童話から辞書や小説、論理の本もあったか。
覚えきれないくらいの本があって、何度読み返しても飽きやしない

学生時代に集めた本の殆どは売ってしまったな
一番買い手がつかなかったのは旧約聖書…ちゃんと翻訳版と原作(というのか?)現地語で書かれたのでかなり厚い
学校で、社会教師から貰ったやつだったかな

そういうのが好きな先生だったから

そういえば、イタリア語の習得は難しかった
辞書と教科書とをにらめっこさせて、ノートにびっしり書き留めて
分からないとこはイタリア語に詳しかった講師に聞いてた
英語は、万国共通語だからと無理矢理やらされたのを覚えてる

兄さんに言ったら分厚い和英辞書と英和辞典が送られて来たな

値段のとこは丁寧に塗り潰されてたけど、本屋で見たら一番高いのだった……!!!

大学行くのは苦労しなかった
中学からのエスカレーターだったし、行きたい学部もそこにあったから
学校に近いアパート借りて移り住んだんだよなー…


いまじゃ懐かしい。まだあるのかな

今度日本に帰ったら行ってみよう。

「そうだ、ピアノ。」
思い出したように横に視線を移す
たまに弾くから調律はしてある、元々、空き家だった頃から在るらしい年代物

立派なグランドピアノ。少し小振りだけれど音だってしっかりしてるし、椅子の皮だって綺麗なまま
壊れたとこなんて一つもない。ピアノの漆だって剥げちゃいないし、埃も被っていない
一番最後のは毎日拭いてるからだけど





鍵盤にそっと指を遣る。椅子に浅く腰掛け、ペダルに足を掛けた

「何にしましょう………―――――――そうだ、虹。」
まだ指が覚えてるかも知れない。と初めの音に指を合わせた
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