短編

□コバルトブルーを浮かべて
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「ねー名前、アイス食べようよ!」


サイ、大好きなサイ。
いつだって子どもみたいに無邪気で明るくて、大好きなサイ。


「この花はなんていう名前?」

「それは――なんだったかな?忘れちゃった」

「ふーん、でも綺麗だね。名前に似合うよ!」

「あ、ありがとう…!」


笑顔が誰よりも輝いていて、誰よりも楽しそうにその目に世界を映すサイ。


「名前好きー!」

「私も、サイが好き!」


純粋に好意を寄せてくれるサイ。



でも誰よりも暗い瞳を持った幼い少年。




「俺さ、もうすぐ記憶がなくなるんだ」

「名前との時間、忘れたくないな」



忘れないで。

私も忘れないで欲しいよ。

サイ、あなたと過ごせる時間がこんなにも愛おしい。



「みてサイ、鳥が飛んでる」

「本当だ
―――俺もあんな風に、いつかは自由に飛べるかな」

「え?」

「んーん、なんでもない!」











「っあぁああぁああああ!!!!」


記憶が抜け落ちるという瞬間、サイは激しい苦痛に襲われその痛みに耐えられずに叫ぶ。
体を痙攣させながら、服を掴む手には力が込められ血管が浮き上がり、汗を滲ませ苦しげに眉を寄せた。


いや、いや、
いかないでサイ、
私を置いていかないで、忘れないで――


悲痛を訴える姿。
それを私は見ている事しかできない。


(怖いよサイが、私を忘れる日が来るなんて。)


「く、っ、うぁあああぁああ!!!」

「サイ、サイ、サイ…」


私は壊れたようにサイの名前を呼ぶ。
堪えられなかった涙が頬を伝っていくのもそのままに、サイの手を握りしめてひたすらに名前を呼び続けた。


「…名前、――――」

「サイ!」


そうして私の腕の中、サイは力尽きたように瞼を閉じた。
















ねえサイ、私はサイが好きだよ。
自分の中身を探しながら、私を愛してくれたサイが大好き。

サイはいつだって私の見方で、私を助けてくれたよね。


絶望の縁から手を引いてくれたよね。


だからね、今度は私がサイを守る番。
サイが私を忘れても、私がサイを置いていかないよ。


私が、サイの全てを愛してみせる。


















「――アンタ、誰?」



その手を私が引いてあげるから。
(忘れないで、)


(忘れたくない)(忘れて欲しくない)
(ずっと側にいたい)(ずっと側にいる)
((愛してる))




2011/7/9

急にシリアスもの書きたくなりました。
記憶を失うなんて悲しい。アニメの最後は切なくなりました。
彼には笑っていて欲しいです。
 
 



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