短編

□まどろみの中で
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『…………僕らの、アリス…』





悲しげな声とともに、




チェシャ猫は消えて


世界が真っ白になった。







しばらく経って目を開けると、目の前に広がる部屋の天井。

見慣れた部屋の風景が入りこんでくる。




「……………ほんとに

夢、だったんだ…………」




じわりと視界がにじむ。

あれ、わたし泣いてるの…



目尻をこすりながら起き上がり、ベッドに腰掛ける。

涙のしずくが頬を伝って落ちていく。


しかもそれは止まることを忘れたように、ぽたりぽたりと服に水玉を作っていく。



たまらなくなって、上を向いた。
天井が目に映った。


















「どうしたんだい、アリス」





「…………………え?」







聞き慣れた声に驚いて部屋を見回すと、ドアのほうでちょこんと転がりこっちを見ている猫の生首。



さっき夢で消えた、チェシャ猫。




驚きすぎて言葉を出せないわたしに猫が続ける。




「お腹が空いたのかい?
なら僕をお食べ。猫の肉はとっても美味しいんだよ。」


「ちっ、違うわ
お腹なんか空いてないから………!」
 
 
「ならどうして泣いているんだい」




言われてわたしは慌てて目元をごしごしと拭う。



「…………また、夢?」



近づいてきた猫の生首を抱きしめながら問いかけてみる。

もしかしたらまたわたしは夢を見ているのかもしれない




「ゆめ?
ここはゆめじゃないよ、アリス」



頭を撫でるとゴロゴロと鳴くチェシャ猫
いつものにんまり顔に、ひどく安心した

「…………ほんもの?」



「ほんものだよ」





二本足で歩く猫が僕以外にいるのかい、と少しおどけた様に言うチェシャ猫

前にも言ったが、今のチェシャ猫は首だけなのだが。


そんなことはお構いなしに猫は続ける。



「どんなゆめを見たんだい、アリス」


「………なんでも、ないわ……」



言葉にするとまた現実になりそうな、嫌な予感がして
わたしは返事を濁した。



猫の首を抱きしめる腕に力をこめる

すると応える様に擦り寄ってくる猫の首に、どうしようもない愛おしさがこみ上げてきた。


「ねぇチェシャ猫、

ずっとわたしの側にいてね。


お願いよ。」



わたしがそう言うと、一瞬キョトンとした猫。
けれどすぐにいつもにんまり顔になって答える。








(僕らのアリス、君が望むなら。)







END

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