SHINING DAY

□手のかかる子ほど
1ページ/1ページ




「腹痛いんで、休ませてください。」

二時間目の休み時間、全然痛くなさそうな声色で、音符マークでも付きそうなほど悠々とそう言ってのけたのは、今しがた保健室にやって来たサボり魔の南沢くんだ。



「南沢くんまた仮病?若いうちに楽を覚えちゃ駄目ですよー。」


どっかりソファに座りこみ、手慣れたように保健室利用用紙に今の時間や体調を記入していく様子に呆れながら注意すれば、南沢くんは記入の手は止めずに、もう片方の左手で頬杖をつきながら応えた。


「今回の授業は前のテスト良かったからいーんです。それに内申関係ないし出るのかったるいし。」


全くやる気のない回答である。
中学生のお言葉とは思えない生意気さだ。やれやれ。


基本的に教師の前では礼儀正しく真面目を装おっている南沢くんだが、保健室で私の前ではいつもこんな感じだった。
歳が近いため、親しまれているのか舐められているのか、たぶん後者ではないと思うけど、彼が私の前で素な部分をさらけ出しているのは確かだった。


こうやってわかりやすい仮病で授業をサボりに来るのはもう何度目かわからない。
しかも出席日数が足りなくならないようにちゃんと計算しているものだから手に負えない。

体温を計り終えた体温計が「ん、」と差し出されたために受け取りに行きながら、若干もう諦めているけれど一応口を開く。


「内申内申って。
南沢くんさ、内申より大事なことってあるでしょう?」



すると瞬間、ニヤリ、悪巧みする子どものように口元をつり上げた南沢くん。

なんだ、と思う間もなく、伸ばした腕が南沢くんの右手によってパシリと捕まれた。



「え。」



そのままグイッと引っ張られ上半身が前のめりになる。
倒れる前にと机に手をついた私と、身を乗り出した南沢くんが私の耳元で囁いた。



「じゃあ内申よりいいこと教えてくれよ、香織セ・ン・セ?」



…南沢くんは自分の無駄に整った顔を自覚しているらしい。

計算された角度で持ってすごくいい笑顔のどや顔をされた。
細められた金色の瞳で見つめられ、やけに低くかすれた色っぽい声。
うん、同級生の女の子なら絶叫ものかもしれない。


たが私の周りには吹雪&一郎太を筆頭にしたイナズマジャパンにイケメンくんが多かったため、一応そうゆう耐性はついているのだ。
(やけに距離が近かったやつもいる。明王にぶっ飛ばされてた。)


「…はい、南沢くん頭痛にしといてあげるねー。じゃあベッド貸してあげるから一時間寝ていってください。」



スルーして体を起こした私に、南沢くんがキョトンと目を丸くした。

そして欲しいものが手に入った子どものようにふわりと笑った。




「香織先生、やっぱり面白いわ。」

「それはどーも。南沢くんは、ちょっとひねくれてるね。」

「そんなひねくれ者の相手してくれんだ?優しいなぁ香織先生は。」

「まあ似た人が近くに居るからね。」



明王とか明王とか明王とか。

首を傾げた南沢くんを横目に、アルコールで湿らせた脱脂綿で拭いた体温計をケースに戻した。





2012/12/20

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ