短編

□肉まん
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公式サイト『因果日記6』より
新十郎の三秒ルールエピソードから思いついた妄想。





「わぁ〜っ、新十郎!肉まんがあるよ肉まん!」


町を歩いていたら始まった、因果くん恒例の「あれ食べたいこれ食べたい」発言。

目立つパンダの被りものをひょこひょこさせながら新十郎の腕に絡み付き、背の低い因果は片手をブンブン振り回しながら新十郎に主張した。


「僕肉まん食べたい!」

「お前…さっきアイスも食ったろ」

「え〜、い〜じゃ〜ん!
今は肉まんの気分なの!」

「ちょっとは我慢しろ」

「新十郎〜!」


因果はいつだって子どもみたいだ。無邪気で可愛いくて、ちょっとの事なら許せちゃう。新十郎はいやいやながらも面倒見が良く、私たちの内では頼れるお兄さん的存在だ。

二人の親子のようなやり取りに私は隠れて小さく笑う。

するとふいに因果が、私にくるりと顔を向けた。


「ねぇ、名前も肉まん食べたいよね?」


新十郎には散々頼んでもダメだったらしい。
口を尖らせながら私に助け船を求めた因果に、私はなんだか可愛いなと思って、二人に近寄っていって因果の頭を撫でた。


「うん、私も肉まん食べたくなっちゃった」


「ねぇ新十郎、ダメかな?」と新十郎を見上げれば、彼はうっと言葉を詰まらせる。
しばらく私と目を合わせた後、降参とばかりにため息をついて両手を上げた。


「ったく、仕方ないな」


了承を頂けたみたいだ。


「だって。やったね、因果。」

私が再び因果に目線を落とすと、体は喜びを体現するように勢いよく私の体に飛びついた。





「わーい肉まん!」

「良かったね因果。
肉まん暖かいね〜」

「ね〜!」


新十郎によって購入された肉まんは、私と因果の手に一つずつ置かれた。
その暖かさに私が微笑むと、因果もにっこり笑って応えてくれる。

その笑顔にほっこりしながら私たち三人は公園に向かい、そこで休憩しながら肉まんを食べる事にした。

そしていざ三人で肉まんを食べようとした時、


「!」


新十郎が手を滑らせ肉まんを落としてしまった。




「あ……」


その現場をバッチリ見てしまった私と因果。

何も言えず私たちが見つめる中新十郎は慌てて肉まんを拾い、チラッと私たちと見ると「三秒ルール?」と呟いた。

…いや、さすがに外(しかも土の上)ではヤバいと思う。アウトだ。



「…新十郎、私の半分あげるよ。
だからそれはもったいないけど捨てたほうがいいと思う。」

「あ、悪いな…いいのか?」

「いいよ、はいどうぞ。」


砂土付きの肉まんを新十郎には食べて欲しくはないので、私は自分の肉まんを半分に割って、彼に差し出した。
中からはホカホカと湯気が立って、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。


すると、隣から講義の声が上がった。


「新十郎ずる〜い!名前の肉まん僕も欲し〜い!」

「「は?」」


新十郎と私の声が重なる。
きょとんとした私に構わずに腕にぎゅっと抱きついてきた因果。


「きゃっ、」
「おっと。」

いきなりの衝撃にバランスを崩しかけた私を、新十郎が支えてくれた。


「ねぇ、僕も名前の肉まんが食べたいから、そっち僕にちょうだい?」

「え?あ、でも…」

「ばか、因果。
お前がそっち貰ったら名前の分が無くなるだろ」

「あっ、そうか」


あくまでマイペースを貫く因果。
私が転びそうになってそれを新十郎が支えてくれた事については何も思わなかったみたいだ。


私にすり寄りながらう〜んと何かを考えて、それからにっこり笑ってこう提案した。


「じゃあ僕の半分あげるから、交換しよ?
ね、いいでしょ〜?」


良かった、私から肉まんを取り上げたいわけじゃなかったのか。
(まぁ因果に悪気がないのは分かっていたけど。びっくりしただけだ。)

因果と私、そして新十郎の肉まんは一緒だ。
なのにどうして私のがいいのかはわからないけど、断る理由もないので私は大きく頷いた。


「うん、それならいいよ」

「わぁーい!」

「はい、じゃあ交換こね」

「交換こ〜」


半分にちぎられた因果の肉まんと私の肉まんを交換して。
モフモフのパンダの手に手を引かれながら、近くのベンチに腰掛けた。

右には新十郎、左には因果が座り、澄み切った青空の下で他愛のないおしゃべりをしながら三人で食べた肉まんは、とても美味しかった。



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