トラウマ

□見えない恐怖
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そのせいで私は仮病という烙印押されてしまう。
それからも痛みを耐えながら登校を続けた。
「奈々、今日もお腹痛いの?」
母が登校前の私の長い髪をみつあみにしながら聞いてきた。
「うん…痛い。でもすぐ治るから大丈夫」
私は答えた。
大丈夫、私にはお守りがあるから。と心の中で呟いた。お守りとはみつあみの事だ。母と唯一、二人でいられる時間で私には大切な時間……。みつあみに母を感じていたようだった。
「行ってきます」
いつもの薬を飲み登校した。いつもと変わらぬ光景だったのが一瞬にして崩れる出来事がおきた。


「加賀美〜。お前の髪の毛いつも同じだな!それしか知らないのか?」
クラスの男子が私の髪を引っ張りながら言った。
「痛い…っ、やめて」
私は抵抗したが、男子が強く引っ張ったためにみつあみがほどけてしまう。
「あ…!」
みつあみが……。
目の前がだんだんにじんできた。次第に大粒の涙が落ちる。
「な、泣くようなことかよ!お前がダッサイ頭してくるのが悪いんだぞ!」
男子はその場を去った。
私は男子にされたことより、ほどけたみつあみが悲しくて仕方がなかった。もとには戻らない。彷彿させるのは「いらない子」と言われること。
なぜこんなに不安になるのか自分でもわからなかったが、何かが音をたてて壊れていくのを感じた。





家の中は相変わらず喧嘩が絶えなかった。この頃から兄が私に嫌がらせや意地悪ををするようになってきていた。中学生の兄にかなうはずもないのでいつも言いなりで、嫌なことも嫌とは言えなかった。
そんなある日、兄が夜明け前に寝ていた私を起こす。両親は私のそばで寝ていたが兄が来たことには気づいていない。言われるがまま兄の後をついて行き、兄の部屋に入った。
「一緒に寝よう」
そう言い、兄は自分の布団に私を誘う。いつも私をいじめていたのにこの時の兄はまるで別人のように優しかった。そのせいもあってか言われた通り兄の布団に横になる。
「気持ちいいこと教えようか」
兄が言った。私にはなんの事なのか全くわからなかった。そう言った兄は私の下半身を撫でてくる。次第にその手は服の中に侵入し、徐々にさらに中に手を突っ込んでくる。
「もっと気持ちよくしてやるから」
兄の手はついにパンツの中に入り直接さわりだした。
この状況になっても私は抵抗どころか兄のなすがままで、いまいち何が起こっているのかわかっていなかった。



ここからまた記憶がとぶ。この兄の行動は度々繰り返された。呼ばれては大人しくついて行き、もてあそばれる…。兄のストレスの捌け口になっていたみたいだ。どこまでの性交をしたのかはまるで記憶にない。思い出そうとすると頭が痛み、うまく記憶が出てこない…。ただ兄は私を物のように扱ったんだという事だけが深く刻まれた。





時はあまり変わらない。私が初めて登校拒否をした。その日の朝、登校した振りをし、家のすぐそばの空き地に隠れていた。なぜかとても強い不安にかられ、家から離れられなかったのだ。すぐに見つかりひどく叱られた。頬も打たれた。私に反論などできるはずもなく涙ばかりが溢れて止まらなかった…。
だけど不安が強い為にまたその翌日も学校へは行かなかった。そのたびに母には怒られ、ただ泣いて耐えるしかなかった。そんな日を二週間程繰り返した。日増しに母の怒りは増して私の居場所はなくなりつつあった。
ある日、
「勝手にしなさい!」
母はついにキレてしまい、私を相手にしなくなる。怒りもしなければ話もしない。私の不安の事など聞いてはもらえない。母は最初から私の話を聞く気などさらさらないようだったけれど。
父も兄も知らん顔をして私を無視していた。兄に限っては夜明け前に私を起こしに来るのだけは相変わらずだった…。





家庭の中はさらに荒れていく…。





再び登校出来るようになって一年ほど経ったある日。私はいつものように学校を終え帰宅し玄関を開けた。そこにいきなりこちらを見て立ち尽くした母の姿が目に飛び込んでくる。その様は明らかに異様でいつもの母とは違っていた。
「……お母さん…?」
恐る恐る声をかける。
「………私は…もう終わりよ…」
母がぼそりと呟く。私はなんの事なのかさっぱりわからず、次の母の言葉を待った。
「奈々…あんたが家事やるのよ」
「え…?」
いきなりの発言に戸惑っていると突然腕を捕まれ台所に連れていかれた。そこには子供が使うのにちょうど良さそうな調理器具などが山積みになっていた。
「私…が…料理するの?」
まだ10歳だった私は料理なんかしたことがなく、明らかに無理難題を叩きつけられていた。しかし母は、
「やるのよ!やらないなら出ていきなさい!役立たず!」
とすごい剣幕で怒鳴った。私はガタガタと体が震え始めた。助けてくれる人なんかいないのはわかっているが母と二人でいるのが恐ろしくなってくる。
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