存在=生と死

□出会い
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何かが聞こえる…。

「忌み嫌われた王子」
「悪魔の子」

人々が口々にそう言い、冷たい視線を俺に向ける。ささやきあってる…だけど俺はなぜそんな言われ方をするのか理解出来なかった。
「やめて!やめて下さい!殺さないで!」
強い力で俺を抱きしめる。
「…!」
俺の母親だった。長い黒髪…深い蒼い瞳。とても綺麗でとてもあたたかい人。俺をいつも守ってくれていた。
でも泣いてる…今日はいつもの母さんじゃない。
「こいつは罪人だ!かばい立てするのならお前も同罪にするぞ!」
長身の赤い髪の男が剣を俺達に向けている。俺を包み込んでいる母さんの腕の隙間から見えたのは、鎧で武装した兵士達。みんな武器を構え俺達を囲んでいた。
「構いません…私がどうなろうと…。だけど、この子は殺さないで!まだ10歳なんです!こんな子供を相手に……。どうかお願いします!殺さないで下さい!!」
必死に言っていた。腕にさらに力がこもったのがわかる。
「…フン…。堕ちたな…ミレア。そのガキがそんなに大事か?」
赤髪の男がニヤリと笑い、俺達に向けていた剣を下ろす。
「………」
何か囁くように赤髪の男が言っているが全く聞き取れない。
刹那。
「!?」
俺を強く抱きしめていた母さんの姿が消えていた。跡形もなく…。
「哀れだな」
不敵な笑みを浮かべた赤髪の男が言う。
「……!お前が…お前が母さんを……っ!」
怒りと母を失った悲しみが俺の心を埋め尽くす。そして赤髪の男に対する憎しみが一気に沸き上がってくるのを感じた。
「クク…いい顔だ。殺すか?俺を?」
「………さない…」
「なんだ?聞こえないなぁ。クク…」
赤髪の男と他の兵士達の笑い声……母さんを殺したのに平気で笑っている…。
「許さないっ!!」
兵士達の顔色が変わるのがわかった。
「なっ…!?」
「あ…ぁ……っ」
赤髪の男からも笑みは消えていた。無表情に近いか…。
「黄金の瞳…やはりお前は生きるべきではない……」
男の声は俺にはほとんど聞こえていない。どんどん俺の中で何かが暴れ出そうとしていた。そして意識も朦朧とし始めていた……。
「お前だけは…許さない……っ!!」

最後に言った言葉だった…。




「………ぅ…ん…」
眩しい…。
「あ……夢…」
俺は自分が寝ていたことに気づいた。本を読んでいてそのまま寝てしまっていたようだ。机の上に山積みになっている本が今にも倒れてきそう。
「ふぁぁ…」
俺は大きく伸びをした。体のあちこちが痛い。机で寝てたんだから仕方ないか…。
「もう時間だな…。あとは学校でやるか」
制服に着替え身支度を整えると、分厚い本数冊とノートと筆記用具をカバンに無造作に入れる。
「あと…これもだな」
と、格好に似合わない大剣を背負う。
部屋を出て階段をおりると、そこにはカウンターがあり部屋にはたくさんの椅子やテーブルがある。今はまだ開店前なので人気がないが、開けば多くの人で席は埋め尽くされる酒場だ。
「おう、リヴァ。今から行くのか?昨日は遅くまで起きてたみたいだが大丈夫か?」
白髭をはやした老人バースが俺に声をかけてきた。バースは店主で、俺はここで住み込みして働きながら学校へ行っている。まぁ表向きは…だけど。
「いろいろうるさいんだよ、学校って。俺には合わないね」
「ハハハ、そうだろうな。でも我慢するしかないだろ?ロエルには逆らえんしな」
「わ〜ってるって。遅刻してロエルの小言聞くのはまっぴらだ。とりあえず行ってくる」
ひらひらと手を振り店を出た。外はまさに快晴。俺の気持ちとは真逆な天気だ。

歩く事10分。
目的地、国立魔法学院に到着した。ここは国をあげて魔法使いを育成し、魔法そのものの源になる魔力の研究を行っている。
一般の学生が全体の95%を占め、残る5%は俺と同じ研究生だ。研究生になれるのは魔力の高さを認められた者のみで、どんなに優秀な一般学生でもその実力の差は大きい。
「あ!研究生のリヴァ様よ!」
「相変わらず今日もステキ〜。研究生って何か違うのよね」
校門のとこで女子学生達が話している。声をかけるわけでなし、ただ見ただけで満足出来るらしい。研究生は何かとモテるらしいが…俺にとってはなんだかうっとうしい。
でも今朝は違った。
「……なんだ、お前」
目の前に仁王立ち、とは多少違うかもしれないが、とりあえず立ちはだかっている女がいた。俺を睨みつけるようにして、じっと見ている。緩くウェーブのかかった長めの髪がふわりと風に揺れた。
「…あのっ!お話があるんです!」
女が俺をさらに睨みつける。何だか決闘でも申し込むかのような形相をしている。
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