drop


◆午後11時 

婚約指輪のムーンストーンがほのかに明るい。
なかの光は膨らんで、明日には完全な円になりそうだ。
リディアは肌を冷やす心地よい夜風にあたり顔を上げた。
優しい光を放ちながら月が見下ろしている。
うしろの、窓の向こうで穏やかに寝息を立てているのは珍しくも深い眠りを食らう彼。抜け出してはみたけれど、そろそろ重い腕が恋しくなっている自分が、今までの自分じゃない気がしてむずがゆい。
結婚前と比べれば彼に向かう視線はやわらかで、胸の奥に何か、熱の塊がある。それが時にリディアを動かしたり慰めたり苦しめたりするのだけれど、いらないとは思わない。
不思議と幸せを感じている。
満月の前、14番目の月は満月と間違うほどに綺麗だ。
たとえ不安定に欠けた明日が続くとも、満ち足りているのは愛されているからではない。
愛しているから。

月から隠れてリディアはそっと、ムーンストーンにキスをした。

2011/12/08(Thu) 20:21

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