drop


◆彼はらすぼす 

殿下と呼ばれた男はこの上もなく優雅に椅子に座っていた。
そのおもては薄いほほえみを形作るが、その美しさは逆らえない威圧感を和らげるどころか増幅させている。
傍らの女の髪をもてあそぶように手を動かし、もう一方はひじ掛けにおき、頬杖をついてと表向きくつろいだ様子になって、隙がない。
控えのものたちが無表情にもはりつめているのを一段高い場所から眺めやってから、声をかけた。
「それで?」
うながされて答えたのは、見た目には青年というより少年に近い若者だったが立場はそこらに控えているものより上だった。
へりくだりつつも臆することなく言葉をかえす。
「申し訳ありません」
具体的ではない返答にも関わらず意味が通るのは、目の前の男が命じたことに対しての簡潔な結果報告だからだ。
その証拠に控えているものたちが男の反応を恐れてか、わずかにたじろぐ。
しかし男はまるで理解し難いことを聞いたように眉間に皺をよせ、気を取り直して笑った。
「ユリシス、僕は僕のリディアがどこにいるのかときいているんだけど?」
場の空気とは逆行して、不気味なほどにっこりと笑っている。
「すいません。殿下の『奥方』を連れてくることはできませんでした」
「……連れて帰るまで戻ってくるなといったはずだけど、約立たずなのかな。その耳も君も。それとも君も行方不明になりたいってことか」
「…申し訳ございません。けれど、有力な手がかりは掴みました」
ユリシスが背後へ合図を送るとフギャーという声とともに灰色の塊が運ばれてきた。
首のあたりをつかまれて、狩られたウサギよろしくぶら下げられてはいるが、まだ抵抗するだけの力はあるらしく毛並みが乱れるとわめき散らして足で空を蹴っている。
「ニコじゃないか」
よく知る妖精猫の登場に、彼の張り詰めたが雰囲気もゆるむ。
「おい伯爵、なにすんだよ!とりあえず、ここからおろせ!!」
「ニコ、質問なんだがリディアは今どこにいるのかな」
差し出されたニコを受けとる。
「とりあえずおろしてくれよ」
いまだに狩られたウサギ状態のニコである。
「リディアの居場所を教えてくれるなら」
「わかった!!わかったから。たのむ」
おろしてやると慌てて毛ずくろいをしだした。姿だけなら猫なのに心持ちは紳士なのだ。
「リディアの居場所ならしらないぞ」
「でも君はリディアと一緒に出ていったじゃないか」
「ああ。確かに2日前までは一緒だったけどよ、だいたいあんたが悪いんだろうが」
リディアが出ていった理由がということだ。
「あんたが浮気なんてするから」
「してないよ」
「どうだか。現に今だって」
彼の傍らの女に目をやり、ニコは固まる。
「伯爵……それ」
「ああ、これ?作らせてみたんだけど、ぜんぜん似てなくてね。やっぱり本物にはかなわないな」
当たり前だけど。と言いながら抱き寄せた女の髪はキャラメル、瞳は金緑。
香りはおだやかなカモミールの、リディアそっくりな人形だった。


拍手レス&コメントもう少しお待ちください!!(>_<)

2012/01/06(Fri) 00:42  コメント(2)

◆午前0時 酒の肴に満月を 

敷石どうしの色の違いさえ分かるほどに明るい月夜、ポールはアトリエの屋根を登っていた。
月見だといって一人さっさと屋根の頂上に陣取ったロタを目指す。
登りきって危ないと怒らなければならないのに、 たどり着けば見事な絶景に声を奪われていた。
「きれいだろ?」
ロタはどこからかもってきていた酒を差し出すと、ふらつきかけたポールを隣に座らせ、満月をみやる。
「海でみる月はもっと綺麗だぞ」
ポールはぐいっと 杯を傾ける。
「海でも、綺麗でしょうね」
きみも。
なんて伯爵みたいなことは恥ずかしすぎて言えずにいたけれど。
ポールは酔って落ちそうになるまで、嬉しそうな彼女の横顔をみては幸せだった。

2011/12/15(Thu) 19:10  コメント(0)

◆午後11時 

婚約指輪のムーンストーンがほのかに明るい。
なかの光は膨らんで、明日には完全な円になりそうだ。
リディアは肌を冷やす心地よい夜風にあたり顔を上げた。
優しい光を放ちながら月が見下ろしている。
うしろの、窓の向こうで穏やかに寝息を立てているのは珍しくも深い眠りを食らう彼。抜け出してはみたけれど、そろそろ重い腕が恋しくなっている自分が、今までの自分じゃない気がしてむずがゆい。
結婚前と比べれば彼に向かう視線はやわらかで、胸の奥に何か、熱の塊がある。それが時にリディアを動かしたり慰めたり苦しめたりするのだけれど、いらないとは思わない。
不思議と幸せを感じている。
満月の前、14番目の月は満月と間違うほどに綺麗だ。
たとえ不安定に欠けた明日が続くとも、満ち足りているのは愛されているからではない。
愛しているから。

月から隠れてリディアはそっと、ムーンストーンにキスをした。

2011/12/08(Thu) 20:21  コメント(0)

◆雨粒つぶつぶ 大人味ー /午前7時 

彼女が起き上がると衣擦れの音がした。
朝日はもう登っていて、乳白色の光が重いカーテンの隙間から部屋に差し込んでいる。
エドガーは癖もなく肩に流れた、キャラメルの髪に視線でふれた。
いとおしい横顔。やわらかで白い膨らみのさきに、恥じらうような淡い朱。彼女は無言で、部屋は静かだった。
ぼんやりとした金緑は、自らの首筋に遠慮もなく跡を残した人が目覚めていることを知らない。
こちらを向く気配に彼が目をつむると、細い指がこめかみをくすぐった。
そして触れる、ちいさな柔い熱。
離れていったそれを追いかけて、エドガーが瞳を開ければベッドに腰かける背中があった。
ミルクのような肌は甘く、抱き締めてと誘っている。鳥のさえずりも聞こえない部屋は誰かが訪れる足音もしない。
そっと起き上がり後ろから腕をまわせば、振り返ってぶつかる視線と掠れた声。
彼女がそう長くもない彼の名を、最後まで言い切るまえに。
エドガーはゆっくりと唇を食んだ。
長い口づけ。
静かな部屋はキスと吐息で満たされる。
逃げる舌にも確かに残る昨日の熱を探そうと、彼は彼女を再びシーツに沈めた。

2011/11/24(Thu) 08:54  コメント(2)

◆得意な話 

リディア 『妖精話』
ニコ 『世間話』
教授 『石の話』
エドガー 『ピロートーク』


なにこれ楽しい。(^-^)
最近ピンク脳すぎて困る…

2010/12/05(Sun) 00:20  コメント(2)

◆幸福の日だまり 

エドガーはゆりかごに横たわる小さき命にそろりと触れた。
柔らかな熱源は、まるで日だまりのように胸をあたためる。
目はつむったまま、むにゃむにゃと口元を動かしている様子は、こちらまでつられて笑ってしまう。
「僕の小さな妖精。きみはいったいどんな夢を見てるんだい?」
ゆりかごの向かいにいるリディアも、くすりと笑った。
「…可愛い」
「うん」
緩やかに流れる時間。
まるで想像も出来なかった幸せがここにある。




最近ドロップさえ更新してませんm(_ _)m なのに来ていただいて…ありがとうございます。 レス少しお待ちください!

2010/10/27(Wed) 14:43  コメント(0)

◆《星に願いを》 

ほどかれたばかりで、まだ癖が残る髪をエドガーは長い指で丁寧にすいてゆく。
その手付きについ気持ちが良いと思ってしまうリディアは無意識に身体を寄せていた。
「あたし、うそつきは嫌いなの」
「……うん」
キャラメル色を広げ顔をうずめて、彼は冷たい空気とともにカモミールを吸い込んだ。
「でもこの星空は好き」
リディアは天を仰ぐ。
遠く離れた故郷では当たり前にそばにあった光。
大都市ロンドンが大きく成長するたび、美しいこの光も霞んでゆくのだろうか。
心が清らかになる眺めはリディアを包んで守ってくれているような気さえする。
まるで母のように。

「僕は嫌いだ」
「え」
「きみが僕を見てくれなくなる」
どうやらふて腐れている彼は、より一層リディアを抱きしめる。
「せっかく綺麗なのにみないと損するわよ」
すねるエドガーをなだめつつ、リディアは瞬く光へ微笑んだ。

母さま、聞いてる?
嬉しいことも辛いこともたくさんあった。
けれど。
エドガーと共に進んでゆく。
それだけは譲れない、願い。

2010/10/04(Mon) 01:05  コメント(1)

◆目が離せない 


「キリンより僕のほうがめずらしい?」
「そう…みたい」



帰ってきたエドガー

まさかの鳥人ネタ。

2010/09/30(Thu) 18:54  コメント(5)

◆読書感想 

あまりに長くなったので、日記にうつしましたo(^-^)o
BLOG

2010/09/30(Thu) 17:17  コメント(0)

◆決めた 

未だに怖くて読んでなかった伯妖新刊を読むっ!
ってもう新刊じゃない…(∋_∈)

2010/09/30(Thu) 10:44  コメント(0)

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