WORKS'

□瞳
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閑静な高級住宅地の一角に、他とそぐわぬ焼けただれた館がひとつ。
そこに暑い日差しの中、異国人の従者に支えられながら、よたよたと歩く影があった。
煤で汚れるのもかまわず彼女は壁に手をつき確認しつつ、一心に足を進ませる。
「エドガー、どこ?どこにいるの?」

崩れた瓦礫の山から顔を上げた彼は、すぐ斜め後ろにいる彼女に呼び掛けた。
「僕はここにいるよ」
安心させるように、伸ばされた手をそっと掴むと、煤がつくのもかまわず彼は自分の顔にそれをあてる。
すると彼女はほっとしたように微笑みを返すのだ。
とても幸せそうに唇を綻ばせて。


小さき友人たちもその瞳には映らない。
この穢れた血で汚れた僕だけが彼女のすがる場所だった。
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