イナズマ×ポケモン

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カントーリーグには戻らないという修也と、戻ってきてほしいと願う宇都宮くん。
二人の意見は正反対で、どちらが折れる気配もない。
そこでポケモンバトルで決着をつけることになった。

私達が先程いたトレーナーホテルの屋上はポケモンバトル専用のフィールドになっている。
コンクリートだとポケモンが地面に倒れたときに痛いので、フィールドの部分だけは地面になっている。
これもトレーナーホテルが建設されたときにポケモン協会が設定したものらしい。

空が青からオレンジ色に変わりつつある頃、私達は屋上へ立っていた。
修也がチャンピオンだからなのか、他のトレーナーが屋上へやってきてバトルが始まるのを待っている。
チャンピオンのバトルなんか、中々見れるものじゃないからね。

審判は士郎と鬼道くん。
バトルのルールは1対1で、どちらかのポケモンが戦闘不能になれば終了だそうで。
修也は余裕そうだけど、宇都宮くんもチャンピオンを前にして臆することもなく堂々とした様子。

「じゃあ準備はいい?」

「バトル、開始!」

鬼道くんの掛け声で、修也と宇都宮くんのバトルが始まった。

「俺はこいつです!」

宇都宮くんがモンスターボールを宙に放ると、中から現れたのは先程のサンダースだった。

「…頼んだぞ」

修也も静かにボールを放った。
飛び出したのは…ブースターだった。

「サンダース、電光石火で先制攻撃!」

主である宇都宮くんの指示を受けたサンダースは、地面を強く蹴って一気にブースターと間合いを詰めた。

「早いね、宇都宮くんのサンダース」

「サンダースは元々素早いんだよ。全てのポケモンの中でもかなり早い方なんだ」

審判をしながら士郎が私に説明してくれる。
加速したサンダースが、攻撃に転じようとする。

「かわして火炎放射」

ブースターが空中へジャンプし、電光石火をかわす。
そしてすかさずブースターは火炎放射を放った。

「電光石火を利用してかわすんだ!」

迫ってくる火炎放射を、サンダースは先程の電光石火で間合いを詰めたときのように、スピードを出して華麗に火を交わした。

「こちらも攻撃です!10万ボルト!!」

「火炎放射で迎え撃て!」

力を込めたサンダースが強力な電撃―――10万ボルトを発する。
空中から着地したばかりのブースターも、二度目の火炎放射を放つ。
電撃と炎がぶつかり合い、ドーンッと音と黒煙を立てて相殺した。

「すごいバトルだね…」

考える暇もなく二人は指示を出す。
修也くんはチャンピオンだから当然だけど…宇都宮くんも中々の実力だ。

煙が立ち込めるフィールドで、先手を打ったのは宇都宮くんだった。

「空中へジャンプ!」

未だ晴れない煙のせいで、二体のポケモンを確認することはできなかったけど、宇都宮くんの指示を受けたサンダースが高く跳躍して煙から飛び出した。

「ブースターの影を探して10万ボルト!」

すぐにサンダースが再び10万ボルトの電撃を煙のとある一箇所に放った。
空中からは煙が薄く、うっすらとブースターの影が見えるのかな…?
私にはよく分かったけれど、直後に僅かなブースターの鳴き声が耳に届いた。
先程サンダースが放った10万ボルトのお蔭で黒煙は晴れ、中から現れたブースターが傷を負っていた…攻撃がかなり効いてるように見える。

「中々やるな」

「俺の実力はまだまだこんなものじゃないですよ!」

修也と宇都宮くんが言葉を交わす。
今の状況は、宇都宮くんがリードしている。
でも…。

「豪炎寺くん、まだ本気出してないね」

「ああ。ここから反撃が始まるんじゃないか?」

そう、修也はまだ余裕そうだ…現役のチャンピオンの実力は、まだまだこんなものじゃないはずだ。

「もう一度、電光石火!」

サンダースが持前の素早さを生かして、ブースターに接近する。

「そこで10万ボルト!」

「かわせ!」

バチバチッとサンダースが電撃を纏ってブースターに放つ瞬間、ブースターは飛び退いて電撃を避ける。
だけどブースターが飛んだ直後、宇都宮くんはにやりと笑う。

「ブースターの足元にシャドーボール!!」

口を開けたサンダース…牙を剥いた口の前で徐々に闇色の球体が形成される。
まさしく、シャドーボールが放たれる直前だった。
ブースターはまだ空中…当たればそれなりのダメージを与えることができる。

「行っけぇー!!」

ブースターが着地したのと同時かそれより早く、サンダースのシャドーボールは放たれた。
シャドーボールは地面に直撃し、辺りに砂と煙を巻き起こさせる。
…あれ、地面?
彼は、ブースターを狙ったんじゃなかったの?

「何も、見えない…」

さっきもあった…火炎放射と10万ボルトが相殺しあって黒煙が立ち込めて。
先に動いたのは宇都宮くんで…あのとき彼はサンダースを空中へジャンプさせた。
だから…。

「そこで放電!!」

私は、てっきり宇都宮くんの指示は再びサンダースをジャンプさせてブースターの影を狙って攻撃するのかと思っていた。
しかし宇都宮くんが選んだ指示はその場での攻撃…でも煙のせいで敵が見えないのに、そんな攻撃をしても意味がないんじゃ…。

「ああ、なるほどね」

「え?」

審判役の士郎が私の横で呟いた。
…士郎には、宇都宮くんの攻撃の意味が分かったのかな。
彼に問い質そうとしたとき、宇都宮くんが余裕の笑顔で説明してくれた。

「てっきり俺がまたジャンプさせると思いましたか?だけどそれは違います!さっきと同じ状況を作り出しておいて攻撃のパターンを変えて油断を与える…敵は煙からサンダースが飛び出すのを待っていて指示が遅れる」

まんまと私は宇都宮くんの作戦にハマっている。
私が宇都宮くんの相手だったら、きっとサンダースがジャンプしてくるのを待ってる。

「そして放電という攻撃は、周りにいるポケモンに攻撃します。広範囲の攻撃なのでダブルバトルでは不利なんですけど、1対1なら使えるんですよ…!」

「10万ボルトは強力な技だが、どこにいるか分からない相手には狙いを絞れずに使えない…見事な作戦だな」

鬼道くんが感心している…私は電気タイプのポケモンも技も詳しく知らないから分からなかったけれど。
それにしても、技もいろいろな場合で使い分けしなくちゃならないんだね。

「さあ、どうですか豪炎寺さん!?かなりのダメージは与えましたよ」

対する修也は黙っているばかりで、焦る様子も見せない。
宇都宮くんの挑発に何も返事しないのかと思ったら…彼はようやく小さく笑ったのだ。

「悪くない戦術だな…だが、本当にダメージは与えられたのか?」

「っ!?」

修也の言っている意味がよく分からなかった。
広範囲の攻撃である放電をブースターが避けたようには見えなかった。
その証拠にブースターは飛び退いたりジャンプしたりして姿を見せたわけでもない。

きっと修也にも考えがあるんだ…その答えは、煙が晴れてから分かった。

「こ、これは…!」

煙が舞う前にブースターがいた地面には、ぽっかりと丸い穴が開いていた。

「穴を掘る、か…」

「うまく攻撃を避けたね」

鬼道くんと士郎が解説してくれた…修也のブースターって彼の指示もなくよく動けるなあと感心する。

「くっ…!どこだ、ブースターは…」

姿の見えない敵に宇都宮くんとサンダースは余裕を翻して狼狽えている。
キョロキョロと周囲を見渡すサンダースの背後の地面がボコッと動きを見せ、唐突にブースターが現れた。

「ブースター、炎の渦!」

サンダースが背後に反応するより早く、ブースターが炎を放った。
赤い炎がぐるぐると渦を描き、サンダースにダメージを与えながらあっという間に閉じ込めてしまう。

「オーバーヒート!」

煌々と燃えていたブースターの尻尾が更に大きく揺れ、まるで大きな炎のようになる。
いつしかに炎がブースターを包んでいて、ありったけの力を込めているようだった。
小さくブースターが吠えたのをきっかけに火炎放射とは比べ物にならない炎がサンダースへ一直線に向かう。

「サンダース!」

宇都宮くんの叫びも虚しく、炎はサンダースを直撃。
その衝撃で檻のようだった炎の渦からサンダースは解放されたが、攻撃をまともに食らったサンダースは吹き飛ばされてしまう。
地面に倒れたサンダースの意識はなく、立ち上がる様子も見られない…。

「これで決まったね」

「サンダース、戦闘不能。よって勝者は豪炎寺のブースター!」

鬼道くんの掛け声で、バトルは決着した。
パチパチ、と外野で見ていたトレーナーが手を叩いて賞賛した。

「サンダース!!大丈夫か!?」

慌てて宇都宮くんがサンダースに駆け寄って抱き上げる。
彼らはよく健闘したと思う。
そんな二人に、修也が近づいて声を掛ける。

「お前達の戦い方は悪くなかった。シャドーボールからの放電は中々良かった」

「…やっぱり、豪炎寺さんは強いです。そう簡単には倒せませんね」

「火傷になっていないか心配だ。薬を使ってやれ」

「ありがとうございます」

修也は宇都宮くんにスプレー式の薬を渡した。
フレンドリィショップで大量買いした中で見覚えがある…確か回復の薬、だったかな。
一番高い薬だったはず。

「豪炎寺さんはすごいトレーナーです!俺の憧れの人です!!でも…リーグには戻ってきてくれないんですか!?」

「…悪いな。俺はまだ、名前と過ごしたいんだ」

宇都宮くんの言葉をやはり修也は受け入れなかった。
その言葉を最後に、彼は体を反転させ私達の元へやって来た。

「付き合せてすまなかったな」

「別に。楽しかったよ」

「面白いものが見れたしな」

「さ、ホテルに戻ろうか!」

「ポケモンセンターでブースターを預けさせてくれ」

私達はそのまま宇都宮くんをそっとしておく為に、屋上を後にした。
彼の表情は俯いていて、見えなかった。
ただ、拳をぎゅっと握りしめていたのだけを視界に捉えた。



バトルの余韻に浸っていて、私はすっかり聞き逃していたのだ。
最後に修也が宇都宮くんに言葉を掛けたとき、彼は"名前達"とは言わずに"名前"と言っていたことに。

 

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