二羽の鳥が羽ばたいて

□6.決断と現在
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眠る

(悩む)

夢を見る

(決断を迫られる)

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「ねぇ、タロットカードでもやらない?」

あの日から一ヶ月が過ぎた頃だった。
何も無い病院のテーブルに、彼女はカードの束を置く。

「舞衣も一度やったのよ。
あのときはあまりよくない結果だったけど…今なら何か変わってるんじゃないかって」

そういいながら、彼女はオレの目の前で手際よくカードを混ぜる。
シャッフルして、切って、そしてオレに並べさせる。

「ちゃんと悩んでいることを考えながら並べなさいよ。そうしないとカードは答えてくれないから」

…悩んでいることなどない。
願いが、一つだけあるだけだ。
それでも意味があるのかは知らないが、オレはとりあえずと指示通りに並べた。

「じゃ、捲るわね。まず、問題の焦点」
テンテンが一枚のカードを捲る。
そこには、「Power」という文字が書かれていた。
「…根気、大恋愛、信念、意思、気力…ね。
あのレンって人と、あんたと、舞衣の気持ちのことかしら?」

テンテンが切なげに笑う。
…なるほど、信憑性はあるかもしれない。
少し、占いを注意深く見てみることにした。

「で、次。障害は…《恋人》の正位置ね。
決断、選択、判断…正しかったんでしょうけど、もっといい道は無かったのかしら」
「…次、行きましょう」
暗くなることが嫌だったのか、テンテンは笑顔を作り、次のカードをめくる。
悪魔の絵が逆さに配置されていた。

「現状認識は自己中心、妄信、意地…ね。
今のあんたの状況からしたら、いい意味にも取れるんじゃない?
信じなかったら終わりよ」
テンテンが、チラッとオレの隣で眠るそいつを見て笑う。
どうやらカードの意味的にはよろしくないようだが、捉え方としてはそれしかないらしい。
テンテンは次のカードを捲った。

「近い過去は…《月》の正位置ね。
不安定、虫の知らせ、恐怖…いろいろあったことの総称ね」
テンテンが一度すうっと目を閉じる。
確かにそうだ。
いろいろありすぎて、何がなんだかわからなくなってしまうほど、オレと舞衣は必死だった気がする。
もう、あれも1ヶ月くらい前の話なのだ。

「…潜在意識は、《塔》の逆位置ね。
あら、潜在意識まで信用に満ちているみたいね。
復縁、復活、再出発ですって」

…本当に、そうなのだろうか?
逆に不安で満ちているというのに、オレの心はそう考えているのか。

オレは一度、目を閉じた。

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どうしよう、どうしよう。
あたしはどうしたらいいのだろう?

レン兄さんが、あたしのことを其処まで思ってくれていたなんて知らなかった。
宗家と分家にそんな確執があるなんて知らなかった。
兄さんは、全てを捨ててまであたしを愛してくれていたのに。
あたしは勝手に兄さんを恨んで、何も知らないで、悲劇のヒロインぶって…そして、ネジに縋って。

美瑛 舞衣は日向 ネジではなく、美瑛 レンを選ぶべきだったのだ。
たとえ禁忌だとしても、ずっとそばにいるべきだったのだ。
どうして、あたしはこうも鈍感に今まで生きてきたのだろう?

…だけど、もう遅い。

ネジを愛してしまった。
好きになってしまった。
こんなにも、どこまでも。

ちょっと前のあたしなら、レン兄さんのそばにいけたかも知れない。
でもあたしが苦しんだこと。
そんなあたしをネジが助けたということ。
そして、あたしがネジを好きになって、愛した歴史は、確かにこの胸に刻まれているのだ。

いまさら、彼の元へは帰れない。
なら、あたしはどうしたらいいんだろう?

沢山のわがままな願いが、ぼんやりと脳の中に浮かぶ。
ネジとの幸せ、
あたしに囚われたレン兄さんの解放、
両親のように立派なくノ一という名目の、弱いあたしが両親に報いるための罰。

「どうしたら…」

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