二羽の鳥が羽ばたいて

□9.真実の始まり
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行かないで、

そばにいて、

先にいかないで、

1人にしないで。

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あれからすぐに、舞衣はネジのところへ向かって走って行った。
別に彼のもとに向かう理由はない。
それでも、駆けつけずにはいられなかった。

部屋の中には既にヒアシがいた。
彼は柔らかな笑みを、舞衣に見せた。
「舞衣殿か…久しいな。ライは元気か?」

ライとは舞衣の伯父であり一族当主、ヒアシの親戚であり友人らしい。
たまに、宗家の門をくぐる彼の姿は、舞衣も目にしていた。

「お久しぶりです。ライ様なら多分お元気かと…ここ数年宗家には行っていないものでして。お取り込み中でしたか?」
「いや、私からの用は済んだので失礼する…ネジを頼む」
「はい」

それからヒアシは出ていき、舞衣はネジの隣に座る。
そして、ポツリと呟いた。

「負けたね…」
「あぁ。しかし…これで良かったと思う」
そういうネジの眼は穏やかで、舞衣は少しの悲しみを抑え、言った。
「何かの誤解が晴れたとか?」
「…まぁそんなところだな」

穏やかなネジ、それを見ていると悲しみが吹き飛び、舞衣は少し笑顔になったが、少し厄介なことになったとも思った。

「…まだ、運命は変えられないと思う?」
「いや…それは未だによくわからない。
ただ、自ら選んだ流れに乗ることができるものと選ぶとき、人は目的に向かって頑張れる。そしてそれが、本当に強いのだとようやく分かった気がする・・・」

ネジは静かに額宛を取る。
そして、窓のほうに向かって歩いていき、笑った。

「父上…今日は鳥がよく飛んでいます。
とても気持ち良さそうに・・・」

舞衣も空を見て、自分の家族を思う。
しかし、また悲しさが襲い、目を伏せた。

羽ばたいていった鳥と、羽ばたくことができない鳥。
2人の運命は、ここで分かれてしまったのだ。


…暫くして、ネジは舞衣を見て、あ、と呟いた。

「舞衣、試合を見に行かなくていいのか?」
「うん、そうだね…行こっかな」

確かに、このままここにいるのは辛かった。
今の彼女は、どこかで叫び声でもあげたい気分だった。


静かに舞衣は、扉に向かって歩き出す。
しかしそれは、すぐに彼によって妨げられた。
いきなり腕を引き寄せられ、驚いた舞衣は、訝しげな瞳でネジを見た。

「矛盾してるな…さっきからオレの言葉は。
…やはり、まだそばにいてくれないか?」

そう小さく震えながら、舞衣を抱きしめ言うネジを、舞衣は切なげに見つめ頷いた。

振り払って、扉の外に出ていくことはできた。
しかし、それをしなかったのは、自分も彼のそばにいたいと考えていたからなのか。

舞衣は、ネジの背に手を回し、自らネジにしがみつく。
そして、彼女は静かに目を閉じた。


…それから、すぐに意識は途絶えた。

木ノ葉崩しが始まったからだ。

――そして、舞衣は本戦で戦うことはできなかった…。
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