二羽の鳥が羽ばたいて

□1.はじまりの朝
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指示通りの教室に入る。
まだ人はいない。
開きっぱなしの窓から吹き抜ける風が、ネジの髪を僅かに揺らした。

一応持ってきていた弁当を、ネジは開ける。
適当に、早朝から開いている店で買ってきた弁当。
使用人を宗家の伯父が気を利かせて寄越してくるが、頼っていたのはつい数年前までの話。
憎き宗家にこれ以上頼りたくはなかった。

かといって自炊が出来るわけでもなかった。
彼は料理が得意ではない。
出来合いのものを買うか、食べないか、外食か。
常に彼の中ではその三択しか存在していなかった。

ぱきんと、割り箸を割って、ネジは弁当を食べ始める。
今日の弁当はほんのりと赤く色づいた鮭弁当だ。
まずは隅に添えられた漬物を少し、彼は食べる。
…扉が開いたのは、漬物を噛んでいたときだった。

「あれ?まだあんたしかいないの?」

お団子上に髪を結った女が現れる。
…おそらく、こいつがテンテンだろう。
彼女は、ネジにつかつかと近寄り、恐る恐るという風に、声を掛けた。

「ねぇ」
「…」
「…日向ネジよね?」
「…ああ」
「ふーん。クラスの子はかっこいいって言ってたけど。こうして見ると普通ね」

そう言ってから彼女は、ネジよりも少しはなれた場所で、弁当を広げた。
「さて、いただきます」
それから、また無言。
もくもくと、二人は違うペースで弁当を食べ続ける。
次に扉が開いたのは、ネジが食べ終わった頃だった。

「あ。お二人とも、来てたんですね」

眉の太い男が現れる。
この男には見覚えがあった。

「…まさか、お前まで合格するとはな。リー」
「ええ、今回は体術試験でしたからね!」
にかっと彼…リーは笑う。
アカデミー時代はよく、この男と話をしたものだった。
…一方的に、勝負を挑まれただけだったのだが。

「…お前のような落ちこぼれでも合格するとは…世も末だな」

ため息をつきながら、ネジはそう言った。
冗談ではなく、本気で、だ。
なぜなら、彼は…。

「きゃぁ!」
「!?」

突然、ドアのほうから小さな悲鳴が響いた。
リーが、「あ、閉めるのを忘れていました」と、小さく呟く。
ネジは、ゆっくりとその声がした方向を、見る。

「・・・!」

――ありがとう、あの…また会えるかな?

光が、其処に倒れていた。

****

彼女はどうやら転んだらしい。
鼻を押さえながら、涙目になっていた。
「あ、あう〜…いたい…」
「ちょっとあなた大丈夫!?」

テンテンが、彼女に駆け寄っていく。
そこで、彼女の姿はテンテンによって、少しだけ隠れてしまった。

「だ、大丈夫です…すみません。よく転ぶんです」
「舞衣様は割とドジですからね」
「はは…空羽、焼き鳥にされたいの?」
「空羽?」

聞き覚えのない声、名前に、ネジも首を傾げた。
しかし、その答えはすぐに分かった。
そうだ、確か、彼女のそばによくいたあの白い口寄せ鳥だ。
彼女も、テンテンに疑問の答えを返している。
どうやら、正解のようだった。

「かわいらしい女性ですね」
いつの間にか隣に来ていたリーが言う。
まさか、初めて顔を見たとは言うまい。
「お前…班分けのときに名前を聞かなかったのか?くノ一トップもわからないのか」
「そんなことはないですよ!ただ、近くで見るのは初めてでしたから」
リーが、少しだけ楽しげに笑う。
これからこの班員で過ごしていくことが楽しみなのだろう。

「青春してるか──!!お前ら──!!!」

…教室中に響き渡りそうな声で、空気が一瞬で凍てついたのは、それからまたすぐのことだった。
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