二羽の鳥が羽ばたいて

□9.君の不滅、僕の不滅
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愛してくれて

ありがとう

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「舞衣…」
酷く悲しそうな声が、部屋に虚しく響く。
あたしは、まだ繋がれたままの足の枷も砕く。
そして、軋む身体を直立させた。

「舞衣…!」
ネジが、こちらに駆け寄り、あたしの身体を支える。
ついさっき触れ合っていたはずなのに、酷く懐かしく感じた。

「ネジ、ごめんなさい」
潤んでいく眼をごしごしと擦って、ネジの胸板にしがみ付く。
「…もう、勝手に一人で行動するな。
約束しただろう、忘れたのか?」
呆れたように笑って、彼もあたしの背に手を回す。
それから、少しだけ身体を離す。
まっすぐと、あたしがネジの目を見れるように。

「――オレがお前の運命を変える、と」
「…うん。でも、ネジ。さっきからずっと思っていたの。
あたしにも、変える力があるんじゃないかって」
「そうだな。それなら」
「…うん」

「二人で、変えてみよう」

ほぼ同時に、二つの声が重なる。
小さな嘲笑が聞こえたのは、そのときだった。
声がした方向には、叶えたい願いの一欠けら。
楽しそうに笑っているはずのそれが、とても悲しそうで、苦しそうに見えた。

「…馬鹿だな、舞衣。
お前は呪印がある限り、オレからは逃げられないんだよ。
それで、運命を変える?
ふざけるのもやめような、舞衣」

きりきりと、首が絞まっていく。
蛇に絡みつかれたように。
鎖で縛られていくように。
遠くで、「舞衣!」と叫ぶ声が聞こえる。
もう、返事は出来なかった。

「お前はオレと一緒に死ぬんだ…。
こんな、オレとお前が結ばれない世界から離れるんだ。
そうしたら、きっと二人とも幸せになれる。
オレは今度こそ、舞衣を守れるんだよ」

レン兄さんの笑い声が、耳に響く。
…もう、だめ。
ずるっと、体が重力に従って、下に落ちる。

ネジの怒鳴り声が、遠くで聞こえた。
(…だ、め。ネジ、逃げて…)
レン兄さんは、ネジがどう動くか、どう考えているのかを、観ることが出来るのだから。

****

急がなければいけなかった。
レンの印が結ばれたままの右手、あの形さえ崩せば、舞衣はひとまず助かる。

それなのにどう足掻いても、レンに攻撃は当たらない。
次に此処へいこう、あそこに柔拳を打とう。
…そんな考えも、何もかもが読まれている。

(…だが)
胸に当てられた左手と、組まれた印。
このどちらかを離さなければ、オレに攻撃は出来ない。
外すなら、印だろうか?
それとも、息絶えた舞衣を追うのか?

「そうだな、それならもしかしたら一緒に行けないかもしれないな」

オレの心を読んだレンが笑う。
彼は、オレの柔拳を身軽に交わしながら、「気を失ったか」と呟いて、印を解く。
それから、背のほうに仕込んでいた刀を取り出した。

「なんでオレが舞衣と一緒に死なないといけないか、解るか?
本当は、オレが舞衣のそばにいるはずだった。
舞衣が笑いかけてくれるのは、求めるのはオレの筈だった。
それなのに、それなのに一族の慣習が!しきたりが!オレから全部奪ったんだよ!!
この手は舞衣を守る代償行為すら許さない。
舞衣と契ることすら許されない。
死ぬことでしか許されないのさ!
跡継ぎのいなくなった美瑛一族は確実に滅ぶだろう。
こんな狂った一族は、この世界には要らない。
幸せなことだと、どうしてお前は思わないんだ!」

「お前のせいだ!
お前が、お前が余計なことを舞衣に吹き込んだんだ、
人形は持ち主だけを愛せばいい、他の者に対する感情は要らない。
それなのに、お前のせいだ!
お前が、オレと舞衣を壊したんだ!!」

「!!」

激しい突風が、その部屋に流れ込んだ。
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