二羽の鳥が羽ばたいて
□8.追いかけた末に
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(次のお願いも…叶えられる、かな)
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舞衣の様子がおかしいことには気づいていた。
問い詰めることはできなかった。
「どうする気なんだ?」と尋ねても、彼女は答えてくれなかっただろう。
なら、待つしかないと思った。
その結末が先ほどの情事である。
さすがに嫌な予感もしたし、拒みたいとは思った。
…結局、据え膳食わぬは男の恥ということで、最後までしてしまったが。
さて、いよいよここからがオレにとっての本番である。
修業で鍛えてきたこの身体。
たった一度きりの性行為でばてるほど、オレはやわな男ではない。
ぐったりと眠る振りをして、舞衣の行動をひたすら待った。
…案の定、彼女は動いた。
オレが予想していたとおり、あの男の元へ行った。
あとは白眼を使いつつ、追っていけばいいだけの話。
そこから先で、なにをするかはそれからだ。
殺し合いか、話し合いか。
まぁ後者は殆どありえないだろう。
降り積もった雪が、足跡を完全に埋めていく道。
ゆっくり、ゆっくりと進んでいく。
そこになにがあるかもわからないまま。
(…まぁ、そろそろ来るだろう)
このまますんなり進めるとは思っていない。
いい加減、彼女あたりが来る気がしていた。
「・・・ほらな」
目を細めながら、ネジは遠くの景色を眺める。
そこには、あの銀髪の少女が立っていた。
「…やっぱり、来たんですね」
「ああ」
「…引き返さないんですか」
「愚問だな」
空羽がそっと目を伏せる。
それは深い悲しみに耐えるというより、何かの感情を押し殺すような動作に見えた。
「…舞衣様はあなたに来ないで欲しい、そう望んでいます」
「…ああ、そうらしいな」
「っ…それなのに、あなたは行くんですか」
―――嗚呼、本当は、お前だってもう分かっているくせに。
「…オレは、アイツの運命を変える約束をしているんでな。
約束を果たしに行く。それだけだ」
…まるで、安い話の主人公の気分だと思う。
城にとらわれた姫を助け出す勇者、よくある話だ。
(姫の意思にそぐわない行動しか、するつもりは無いけどな)
一度瞬きをしてから、もう一度そこを見る。
そこに彼女の姿は無かった。
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どこかで見た、いや、感じた光景。
嗚呼、あたしはまた間違えてしまったんだろうか。
じゃらりじゃらりと巻きつく鎖。
動くことを許さないとでも言うように、手枷足枷とセットでそれは線を描く。
あたしが、少し前まで暮らしていたがら空きの屋敷。
両親が死んでから、(台所等を除いて)ずっとこの部屋…仏壇があるこの部屋にしか、入ることはほとんど無かった。
そんな部屋の隅に、繋がれる日が来るなんて誰が予想しただろう?
…こんなふうになる夢は、いつか分からない昔に見ていた。
でも、信じたくなかった。
これが、こんなことが、現実に起こるだなんて。
夢の中の少女の声を、ふと思い出した。
…あの子は、やり直せるのは一度だけと言っていた。
あたしが、エピローグに一度たどり着いているということも。
これらを総括してみて、わかることがある。
嘘だと思うし、そんなことは現実にはありえないことだと思っているけど…。
あの夢は、実際にあったことではないだろうか?
何らかの理由で、大まかな記憶が消されて、時間が巻戻った?
そんなこと、あるわけない。
…でも、それしかつじつまの合う回答が見つからない。
(なら、なんで)
なんで、あたしはまた同じような結末を歩もうとしているの?
本当の答えは何だったの?
運命ハ、変エラレナイノ?
(―――違う!)
自由な首を横に振る。
そんなことない。
だって、あたしはこの目で見たの。
自分の運命を変えようと、最後までもがき続けた人のことを。
だから、きっとこれは、そうなんだ。
今度は、あたしの番なんだ。
…でもどうしたらいいんだろう?
ふと視線を感じて、顔をあげる。
優しげな表情をしたその人が、あたしのことを見下ろしていた。