二羽の鳥が羽ばたいて

□7.一夜の愛
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何が正しいかなんてわからない。

選ぶべき未来?

誰が決めたの、そんなこと。

あたし、は。

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「ネジ、デートしよう」

言った瞬間、せっかく美味く入れたお茶をネジが鮮やかに噴出した。
汚い。
「あーもう、そんなに驚くようなことだったかしら?」
「ごほっ…当たり前だ!いきなり何を言い出すかと思えば…」

布巾を出し、ネジは汚した場所を拭き始める。
一枚じゃ足りないからもう一枚を出して、あたしも拭き始める。
でも「汚いから止めろ」と取り上げられた。
なにこれ、すごく手持ち無沙汰。
…まぁいい、お言葉に甘えて、自分の話を続けよう。

「あのね、なんとなくデートしたいなって」
嘘がすらすらと出てくる。
この言葉の裏に、何があるのかネジは気づいているだろうか?
彼は、気づいているだろうか?
昨日から、ずっとあたしが壊したはずの仮面を被っているということに。

(ごめんね、ネジ。これで最後、だから)
…そう言い訳と謝罪をしつつ、あたしは嘘を吐き続ける。

「やっぱり好きな人といろんなところに行きたいのよ。
あ、別に焦ってたりとか、そういうわけじゃないのよ?
ただ…少し、わがまま言いたくなっただけ」

こういえば、優しいネジは断れなくなるということを、あたしは知っていた。
だから、あえてその言葉を選ぶ。
確実に、今日という日を楽しめるように。

…案の定、彼は「仕方ないな」と頷いた。

****

昼下がりの青空の下。
冬の気配を感じる澄んだ空気に包まれ、あたしたちは歩く。

…肌寒いからと、ネジに無理やり厚手のパーカーを着させられたのが少し悔しい。
せっかくかわいいワンピースがあったのに、風邪を引いてでも女の子は好きな人の前ではもっともっとかわいい自分でいたいというのに。
ネジの馬鹿。でもそんな優しさが好き。

行き先はなんとなくだけど決めていた。
これはサクラやいのと前にお茶をしていたときに聞いた情報だ。
彼女たちならそういう話にも詳しいし、間違いないだろう。
というわけでまずは、デートスポットとしては王道の映画館へ。

「ホラーと恋愛と学園ものだって。どれにする?」
「…早く始まるのは学園ものだな」
「じゃあそれにしよっか」

一言二言で映画は決定。
ネジが券を二枚分買っているうちに、あたしは持ち込む飲み物を買う。
とりあえず、眠くならないように、アイスコーヒー二つ。

「舞衣、もうはじまるみたいだぞ」
「うん」
券とコーヒーを交換し、あたしたちは映画を心待ちにしている人たちに混ざりこんだ。

****

…誰だ、あんなカオス小説を映画にしようと言い出した輩は。

遠い昔に読んだ小説。
あれはサスケ奪還任務直前のときだったか。
名前が「Prism」から「光角体」に変わっていたせいで気づけなかった。

映画館から少し離れた喫茶店のテラスの一角。
二人の前に置かれた飲み物とアイス。
あたしの前には、「何が何だったのかわからない」という顔をしたネジが居た。

…相変わらず、わけの分からない話だった。
いきなり一人の女の子が屋上から飛び降りることで物語ははじまる。
そして別の女の子が、いきなり死に…次の瞬間には空の上で歌っているのだ。
その歌の後、始まったOP。
いっせいに流れるテロップは、ネガティブな何かを想起させるものばかり。

そして本編で、飛び降りたはずの女の子が、「ここはどこ?僕は誰?」状態になる。
それから新しい学校へ転校…普通に生活するかと思いきや、「そうだ、僕はもともと絵の人間で、本当のこの身体の持ち主は――」となる。
もう何がなんだか。

ただでさえ原作の複線が多すぎて解りにくかったというのに、映画になんてなると余計分かりにくい。
初見のネジには着いていくことは到底不可能だっただろう。
とりあえず補足と言うことで…わかる範囲のことを教えていったのだが…それでもわからないようだ。
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