二羽の鳥が羽ばたいて

□1.刹那の幻
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運命はさらにあたしたちを

翻弄する

踊らせている愚者は誰?

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劇が終わったにもかかわらず、あたしは日向家に居座っていた。
本当は不純異性交遊に当たりそうだし、ヒアシさんが「不埒な!」と言い出すのではないかと思ったのだが…ネジが何かを言ったらしい。
付き合い始めた次の日、ヒアシさんがあたしたちを訪ね、こういった。

「これからも末永く、よろしく頼みます」…と。
まるで結婚をする時のような物言いだ。
ネジに何を言ったのかを聞いてみても、「さあな」としか答えないし…なんなんだか。

(まぁ悪い気はしないし、うれしいからいいんだけど)

あたしは今日も気怠い体を起こす。
劇が終わってもなお、あたしはこの家の家事をさせてもらっていた。
練習中のある日、「最近、食事をするたびに疲れが取れる気がするんだ」と微笑まれたからかもしれない。
嬉しいのだ。人の役に立てるということが。

思わず頬が緩む。
しっかりしなきゃと、あたしは洗い立ての頬をぺちぺちと叩いた。

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今日は納豆と卵のお味噌汁とニシンと白菜の漬物、そしてごはん。
たまに洋食も作るけれど、やっぱり朝は和食が良い。

ネジは、朝から蕎麦ではないけれどニシンが食べられてご機嫌そうなご様子。
…美味しいと言ってくれてるけど、それは近くのお店で昨日買ったもの…いや、なんでもない。


(それにしても…)
ちらっと、そう、何となく思う。
…ネジは、確かにあたしのことを好きだと言ってくれた。
あたしだってネジが好きだ。
でも、正直あまり何かが変わったというわけでもないし…周りにあそこまでせかされる必要があったのか、と。

ということは、だ。
何か、恋人にならなければいけない事情があったのではないだろうか?
世間体というか、何というかの理由で…例えばヒアシさんが「不健全だ!」と怒ったとか。
…あたしはヒアシさんを何だと思っているんだ。

まぁそれはさておき。
手を繋ぐ…は、別にふざけてすることは稀にある。
同棲…という響きはなんだか本当に結婚する前のような感じがするから、同居という言葉に変えておこう。
同居は別に、何かやましいことをしているわけではないし、不健全には違いないかもしれないけれど、まあ、そこまで不健全ではない(と信じたい)

(・・・あ)
そのとき、ぼんやりと何かが浮かんだ。
今日のあたしは冴えている。

正直、世の中の他の男が皆レン兄さんみたいな怖い人だということを、男女の違いの話を通して自覚したくはなかった。
だから、この手の話は基本、耳をふさいでスルーしている。
そのおかげで、あたしは恋愛に疎かった。

しかし、今日は違う。
世の中で言う、何か特別なことでがあるのでは…という電波をキャッチするアンテナ、通称「フラグ」が立っている気がするのだ。
きっとこれが正解だろう。間違いない。
あたしはご飯を食べ終わったネジに、回答を提示した。

「ねぇ、ネジ」
「なんだ。夜はニシン蕎麦か」
「あー…うん、わかった。今日はニシン蕎麦ね。
まあ本題はそれじゃないんだけど」
「なんだ。付け合せは南瓜か。食べるならお前だけにしろよ」
「いや…あたしも南瓜は好きじゃないんだけど…それじゃなくて」

駄目だ。話にならない。
もしかしてこの男、よくいる「フラグブレイカー」というやつなのだろうか?
こういうタイプは、押してダメでも押すしかないらしい。
…前に、いのが言っていた。

「…ネジ、単刀直入に言うね」
「…あ、ああ」
「ネジってあたしとキスしたいから恋人になったの?」
「ぶは…っ」

瞬間、皿を台所に運ぼうとしていたネジが、壁に足の小指をぶつけてしゃがみこんだ。
…痛そう。
はれ上がりそうだからと、あたしはテーブルにそのまま置かれている皿を流し場において、救急箱を棚から取り出した。
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