二羽の鳥が羽ばたいて

□2.愚者の慟哭
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まだ諦めきれていなかった。

心の奥底ではずっと。

それを認めることが怖くて、

それを受け止めることができなくて、

だから、あたしは、

あの光を憎んだ。

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あの祭りが終わって2日後。

舞衣は部屋でぼんやりと、紙に落書きをしていた。
しかし、けたたましいインターホンの音に、それは遮られる。
テンテンだった。

「テンテン!どうしたのぉ?こんな朝に」
いつもの笑顔、見破られたことはこの前まではなかった笑みを浮かべ、舞衣はドアを開けた。
しかし、テンテンはいつものような明るい表情をしてはおらず、むしろ彼女の表情を見た瞬間
に、寂しそうな顔に変えた。
「…舞衣は…舞衣はあたしたちに嘘をついていたのね」
テンテンはそう言いながら、舞衣の眼を見つめる。
舞衣の笑みは、きれいさっぱり消えていた。

「聞いたのね、ネジから」
それでも、テンテンは動じない。
まっすぐ、舞衣のことを見つめているままだ。

「ええ…聞いた、全部。
ねぇ舞衣…舞衣は、そのまま演技を続ける気なの?」
「そうね。続けるわ。それが一番…楽だから」
「本当に?」

ぎらぎらとしたテンテンの瞳が、彼女を射抜く。
しかし、それを見ても舞衣は動じない。
ただ、苛立ちだけはしっかりと感じていた。
…この女は、どうして他人のことにここまで口を挟めるのだろう?
そう思いながら、舞衣は首を傾げ、そして、哂った。
アア、ワカッタ。

「…偽善者」
「!」
「偽善者ね。あなたも、ネジも。そしてきっと・・・リーもガイ先生も。
楽しい?そうやって…弱い人を慰めて、支えて自己満足するのは」

へらへらと舞衣は笑いながら、彼女に刃を刺していく。
傷を負った彼女は、明らかに動揺の色を見せていた。

「何言って…あたしは、舞衣が・・・!」
「心配、とでも言いたいの?」
「っ…そうよ」

――ネェ、アナタハ今、ドンナ眼デアタシヲミテイルノカ、キヅイテル?

――アアモウ、ミンナ偽善者バカリネ。

「…あのとき助けてくれなかったくせに…っ
ネジも、あなたも、みんな大嫌い!!」

激しい音を立て、そのドアは閉められた。

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舞衣の全てが演技だってわかったのは、あのお祭りの次の日だった。

同時に思い出すのは、アカデミー時代のこと。

そういえば入学したときの舞衣を、クラスが離れていたから、あたしは知らない。

でも、聞いたことがある。

入学して1ヶ月くらいで、その悪口はなくなったけど、ある女の子の悪口がずっと流れてた。

『気持ち悪いくらい無表情で、いつも本ばかり読んでいる女の子がいる』

『眼が死んでて、いろんな人に馬鹿にされても何も言わない』

あれは舞衣のことだったのかもしれない。

あたしやリー、ネジが知らないところで、舞衣は苦しんで苦しんで、そして偽りの仮面を着けるようになったのでは…?


だったら、もうそんなつらい思いをしないで欲しい。


偽りの自分を貫いて、そしてそれが定着して、いつか本当の自分を忘れてしまうことがあるって、前に聞いたことがある。

それに、それは辛くて悲しいことだから。

あたしたちの前だけでも、ほんとうのあなたでいてほしい。

それはただのエゴなのかしら・・・?


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