二羽の鳥が羽ばたいて

□10.繋がる想い
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とはいえ、なかなか思いつかなかった。

だから、挑発することにした。

あの人が書き換えた物語。

敢えて、それを演じてあげようと。

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早朝に用意されたシナリオ。そこには照明と、音響、少量の台詞のみが書かれていた。
肝心の舞衣の台詞はすべて省かれているそれを、舞衣はサクラに手渡す。

「時間だが・・・本当に大丈夫なのか?」
白いワンピースを着た舞衣を見て、綱手は引きつった顔をする。
舞衣は、冷静だった。
「大丈夫です」
…いつもより、不安げな表情で彼女は頷いた。

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暗い赤色の照明、現れる一人の少女。
その少女は、鎖に手首を繋がれていた。

少女の前には桃色の髪をした女。
後ろには団子頭の女。
右には藍色の髪をした女。
左には黄色の髪をした女。


「――昔々あるところに、とても美しい白い鳥がいました」
「――しかし、その鳥はある日」
「――その美しい羽を…折られてしまったのです」
「――そのとき、鳥は悟りました」

「運命は変えられないのだと」


四人の声が綺麗に重なる。
中心の少女がうな垂れる。
それから四人は流れるように袖へ引いた。


照明は、青へ。
少女が、ゆっくりと口を開く。
凛とした、悲しそうな、しかしそれでも淡々とした声だった。

「私は羽根のない体を休めていた」
「私は光の無い心を休めていた」

「眠り続けていた」
「鎖に繋がれたまま、籠に閉じ込められたまま」
「ただ、ひたすら眠り続けていた」


「オラ、早くしろよ!」
「この愚図め!」

顔に赤いペイントをした男と、短いポニーテールの男が、少女を蹴る。
少女は、うめきもせず、ただひたすらに台詞を言い続けていた。

「どんなに辛くても、悲しくても、私は耐えることが出来た」

「私は諦めたのだ」
「この世界の希望と言う存在を認識しにくい光を」

「私はやめたのだ」
「この世界の不条理な運命に抵抗すると言うことを」

「私は棄てたのだ」
「ものを考え、感じることの出来る機能を」

「そうすれば、もう何も悲しむことは無い」
「もう何も苦しむことも無い」
「私は、眠ると言う自由を得たのだ」
「それが、幸せだと思った」

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