二羽の鳥が羽ばたいて

□7.沸き上がる劣情
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柔らかな陽光、

なびく風、

「朝ですよー起きて下さいなー」

…自分の上にのしかかっている、何か。

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「はいっ今日の朝食は鮭の塩焼きに出し巻き卵!漬物と豆腐のお味噌汁と白飯です!」

よくもまぁ起きてすぐに、こんなにたくさんの料理を作れるものだと、ネジは感心してから手を合わせた。

「いただきましょう」
「…いただきます」

舞衣が泊まるようになってから、早一週間が経過した。
毎日毎日行われるスパルタ練習のおかげか、とりあえずすらすらとした棒読みにすることまではできた。
本を音読することと何一つ変わらない、台詞にこだわりすぎだ…そう舞衣は言っていた。

しかしまぁ、次からは「棒読みの解消」に話は進むわけではあるが。
…正直、疲れないはずがない。
こうして食事を作ってくれることはありがたいが、やはり客人がいることを考えると気を遣ってしまうのだ。

…しかし、だ。
しかし、いい方向に話が向かっていることがある。

舞衣の身体の痣が、薄くなっているのだ。

分家で、使用人もこの屋敷に呼んでいないこの空間。
しかし、ここは「日向」の敷地内だ。
その空間に居る限り、舞衣は従兄からの苦痛に苛まれることもない。

そういう点から今の状況を見ると、悪いことだとは一概には言えないのだ。

(…あ、これ美味いな)
それに、確かにスパルタだが三食作ってくれたり、掃除までしてくれる。
劇が終わった時には、自分は家事のやり方を忘れていそうだ。

このままいてもらったほうが有り難いのだが…恋人でもないのに、それはおかしい。

ちらりと横を見る。
舞衣は相変わらずの無表情で漬け物を頬張っていた。

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「じゃ、行くか」
「うん」

ガチャリと、家の扉を施錠する。
隣にはネジ、なんだかこうしていると同棲している恋人か、それとも夫婦の気分になってしまう。
そう思っているのは、あたしだけなんだろうか?

いつもと同じように平然としているネジ、何を考えているのかなんて、その顔を見るだけじゃ解らない。

伝心法を使えばきっとすぐにわかるんだろう。
でも使わない。
使ってはいけない。
それはルール違反、反則だから。

「ハァ…」
思わず、ため息。
そしてそれを吐いてすぐに、後悔。

…どうしよう。
…どうしよう、もしかしたら変に誤解されちゃったかもしれない。

普段ならそんな細かいことを気になんかしないのに、おかしい話だけれど。

ちらりと、隣にいるネジを見る。
相変わらずの無表情で、ぼんやりと前を見つめていた。
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