Middledream
□闇に舞う蝶…3
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「聖奈、出かけるぞ」
珍しく私服で現れたネジさんは、そう言って微笑した。
あれから一週間、ネジさんはあたしに家事や掃除をやらせてくれるようになった。
会話もおかげで増えていって、上手く笑えないことに変わりはないけど、死にたいとは思わなくなった。
そして今日は出かける約束をしていたのだ。
服が少ないからと、買ってきてくれたワンピースを着て、三つ編みカチューシャを付ける。
なんだかメイドさんになった気分だと思いながら、鏡を見て、ネジさんを見た。
柄のない長袖に、こちらも柄のないジーンズ。
…この人は自分の服装<私の服装と思っているのだろうか。
なんだか大事にされすぎている気がして、せめてものお礼に、羽織る物で悩んでいるネジさんに、暖かそうなジャケットを選ぶ。
ネジさんは「ありがとう」と呟いて、それを羽織った。
…あ、この人、結構なんでも似合う。
白とか、女物の服しか似合わなかったし…同じ長髪でこんなに変わるんだなぁと実感。
そしてネジさんが濃紺の布を巻いて、準備完了。
「それで、どこに行くんですか?」
木ノ葉を散策するのはこれがはじめてだから、凄く楽しみだった。
しかしネジさんはどうやらノープランだったらしい、少し考えてから、一言。
「甘いもの、食べに行くか」
お前、好きだろう?
付け足された言葉に、あたしは違和感を覚えつつも頷いた。
…あたしはネジさんに、甘いものが好きだなんて、話したことは一度もなかった。
****
甘栗甘の1日限定30個の雪兎大福、1個35両(※1両=10円)。
ちょっとお値段が張るから申し訳ない気分だったけど、頼んでしまった。
白い粉砂糖がまぶされたイチゴ大福に、うさぎらしく耳や尻尾をつけたもので、これは値段が安いのではないかと疑ってしまう。
「物価がこっちのほうが高かったからかな…」
「?…お前のいた場所は物価が高いのか」
「あ、はい。ガトーが市場支配など好き勝手にされたんで。
波の国の物価が高かったのは…商品の輸入もストップされてたからですね」
ガトーに雇われたときに、白と街の様子を見たときは愕然とした。
街に何もないから飢えてる子がいっぱいいて、何もできなくて…悲しかった。
「…結局、あたしたちは感情を捨てるなんて出来ない生き物だったんだなぁ…」
そうしみじみと呟くと、ネジさんは「いいから早く食べろ。なんなら、オレが食べさせてやろうか?」と、軽い冗談を言って、笑った。
気を使ってくれているのだろう、あたしもそれはよくわかっているから、「自分で食べます」と、呟いた。
自分の頬が緩むのなんてどれくらいぶりだろう?
もう二度と、笑えないと思っていたあたしは、このとき確かに微笑んでいた。