Middledream

□闇に舞う蝶…3
1ページ/2ページ

「聖奈、出かけるぞ」

珍しく私服で現れたネジさんは、そう言って微笑した。


あれから一週間、ネジさんはあたしに家事や掃除をやらせてくれるようになった。

会話もおかげで増えていって、上手く笑えないことに変わりはないけど、死にたいとは思わなくなった。

そして今日は出かける約束をしていたのだ。

服が少ないからと、買ってきてくれたワンピースを着て、三つ編みカチューシャを付ける。

なんだかメイドさんになった気分だと思いながら、鏡を見て、ネジさんを見た。

柄のない長袖に、こちらも柄のないジーンズ。

…この人は自分の服装<私の服装と思っているのだろうか。

なんだか大事にされすぎている気がして、せめてものお礼に、羽織る物で悩んでいるネジさんに、暖かそうなジャケットを選ぶ。

ネジさんは「ありがとう」と呟いて、それを羽織った。

…あ、この人、結構なんでも似合う。

白とか、女物の服しか似合わなかったし…同じ長髪でこんなに変わるんだなぁと実感。

そしてネジさんが濃紺の布を巻いて、準備完了。

「それで、どこに行くんですか?」

木ノ葉を散策するのはこれがはじめてだから、凄く楽しみだった。

しかしネジさんはどうやらノープランだったらしい、少し考えてから、一言。

「甘いもの、食べに行くか」

お前、好きだろう?

付け足された言葉に、あたしは違和感を覚えつつも頷いた。

…あたしはネジさんに、甘いものが好きだなんて、話したことは一度もなかった。

****

甘栗甘の1日限定30個の雪兎大福、1個35両(※1両=10円)。

ちょっとお値段が張るから申し訳ない気分だったけど、頼んでしまった。

白い粉砂糖がまぶされたイチゴ大福に、うさぎらしく耳や尻尾をつけたもので、これは値段が安いのではないかと疑ってしまう。

「物価がこっちのほうが高かったからかな…」

「?…お前のいた場所は物価が高いのか」

「あ、はい。ガトーが市場支配など好き勝手にされたんで。
波の国の物価が高かったのは…商品の輸入もストップされてたからですね」

ガトーに雇われたときに、白と街の様子を見たときは愕然とした。

街に何もないから飢えてる子がいっぱいいて、何もできなくて…悲しかった。

「…結局、あたしたちは感情を捨てるなんて出来ない生き物だったんだなぁ…」

そうしみじみと呟くと、ネジさんは「いいから早く食べろ。なんなら、オレが食べさせてやろうか?」と、軽い冗談を言って、笑った。

気を使ってくれているのだろう、あたしもそれはよくわかっているから、「自分で食べます」と、呟いた。

自分の頬が緩むのなんてどれくらいぶりだろう?

もう二度と、笑えないと思っていたあたしは、このとき確かに微笑んでいた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ