Middledream

□闇に舞う蝶…2
1ページ/2ページ

あれから何が何なのかよくわからないまま、あたしはネジさんに引き取られた。

最初のあの懐かしいような、複雑なあの気持ちは何だったのか、今ではもうネジさんには何も感じない。

つまりは、ただの錯覚に過ぎなかったのだ。

たまたま、白に似て、肌が白くて髪が長かったから、重ねてしまっただけ…。

しかし彼は不思議なことに、あたしに心当たりがあるらしく、彼は引き取ったあとから、彼はあたしを飼い殺すかのように、何から何までしてくれる。

あたしを見つめる瞳は、まるで、愛しいものを見るように優しく、暖かかった。

それを心地よいと感じる自分は、もう白と再不斬さんを忘れたのかと、罵られても仕方ないくらい、弱くて脆弱だろう。

けれど、自分でも情けないと自覚してしまうくらい、あたしは今、何かに飢えていた。

自分を愛してくれるなら誰でもいい、以前の、この世界にあたしが来るまで、抱き続けていた感情。

白や再不斬さんと出会ってから、なくなったはずのその感情は、2人をなくした瞬間に蘇ってしまったのだ。

「情けない…」

また、ぽつりと呟いてみたが、誰も「そうだね」とか、「違う」と反応してくれない。

何故なら、今この家にはあたししかいないのだ。

使用人はいたら面倒だからと雇っていないらしい。

そして家の主は、内側からドアを開けられないように施錠して、任務に行ってしまった。

日向の庭から出るにも、結界で出られない。

そもそも逃げる場所なんてないから、大人しく此処にいる、そんな日々。

正直言って、それは退屈だった。

監獄に居るのは嫌だけど、理由も分からずに、尽くされるのはもっと嫌だ。

此処に白は再不斬さんはいない、生きているのはあたし、一人。

死にたい…?

はじめてそう思った。

人間は目標や夢があると、それに向かって突き進んで行く傾向があるらしい。

あたしも、ちゃんとした人間だったようだ。

今まで夢なんて漠然としたものを、抱くことはなかった。

けれど今、あたしは目標に向かって、立ち上がっている。


部屋には何も無かった。

外に出ることは出来ないし、あるのは布団とこの身体だけだった。

布団にこもっているのは良いと思い、あたしは布団を敷いて、中に潜り込んだ。

けれど空気がどうしても漏れてしまう、苦しいだけで終わった。

となると、残されたものは…と、あたしは手のひらを見つめる。

この手のひらしか無かった。

ゆっくり、ゆっくりと手のひらは、首に向かっていく。

それは、意外にも手にすっぽりと収まった。

ぐぐっと…徐々に、徐々に力を込めていく。

最初は首に違和感があるだけだった。

違和感と半端な苦しさに、何度も首から手を離し、やり直した。

けれど、次第に違和感なんてどうでもよくなるくらい、まるではじめて自慰行為を覚えた小学生のように、彼女はその自殺行為に没頭した。

頭がチカチカして、すべてがどうでもよくなってきて、さぁ、いよいよという時──。

ぐらりと、力が抜けて、手はぱたりと畳に垂れた。

自分で自分の首を絞めても、死には近づくだけで触れない。

救いの場所が崩れた気がして、ポロポロと涙が零れる。

なんでなのかは、もうわからなかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ