二羽の鳥が羽ばたいて
□7.空羽の願い
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届かない月に向かって
手を伸ばして飛び上がる
掴んだのは空気だけ、
そんな風に自由も掴めない
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いつものアカデミーの教室、穏やかな朝。
いつものように、今日もあたしは読書をする。
今日は木ノ葉にある和歌を集めた本、まだ入学したばかりだから、書庫には行ってないけど、早く行きたいと思う。
(恋歌って男の人も詠むんだ…あ、この和歌いいかも。えっと…解釈は…)
「ねぇ、舞衣がまた難しい本ばかり読んで黙り込んでるんだけど」
「!」
クラスの女子が、あたしを見てはやし立てる。
いつものこと、だ。
笑う気力が起きなくて、愛想笑いをするのも億劫、唯一心を少しだけ開けるのは口寄せ動物だけ。
笑えなくて笑えなくて、ついには仲間外れにされて、暇だからこうして、本を読むしかなかった。
この1ヶ月間、そうやって耐えてきた。
「その首の包帯も、苦しくないのぉ?」
「がり勉だよねー」
「無表情のお面でも被ってたりして」
「あ、いえてるー!」
…何デ、笑ワナクチャ、イケナイノ?
脳裏にそんな疑問が浮かんだ。
でも、まわりはその疑問に答えることはなく、ただ、ひたすらはやし立てる。
「なんかさ、やっぱりあんた気持ち悪いわ」
「同い年って感じしないよねー」
「天才とか言われて、いい気になってんじゃない?」
「あ、わかる!凡人のうちらと違って、舞衣ちゃんは名門美瑛一族の天才だもんねー」
「てか、ここまで言ってるのに、何も言いかえしてこない、普通じゃなくない?」
「心がないんだよ!」
「うわっそれじゃあ化け物じゃん」
「『醜いアヒルの子』って絵本あるじゃん?アヒルみたい」
「化け物」
「醜い」
「普通じゃない」
「変」
ぐるぐるぐるぐる、頭を駆け巡る呪いのような言葉。
『宗家ダッタラ…』
あの、従兄の言葉が浮かぶ。
『多分な…』
あの男の子の笑みが浮かぶ。
ぐるぐるぐるぐる、いろんなものが浮かんで、消えた。
「…もう、いい」
そうか、この世界では、笑わないと生きられないのか。
表面だけ、みんな笑って生きてる。
1ヶ月経ったけど、あの男の子以外、誰もあたしの首に気づかない。
助けは、来ない。
なら、もう、いい。
…暗闇の中に、仮面が浮かんでいる。
嘘でもいい、構わない、ヘラヘラ笑っていたらいい。
「……笑える、よ」
にこりと、笑う。
それが、あたしが初めて仮面を着けた日だった。
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