二羽の鳥が羽ばたいて

□3.煌めきの中で
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過去に色々あったからか、あたしにはトラウマがいくつかある。

だいたいは克服したが、いまだに克服できないものが1つ…

こればかりは無理なのだ。

口に出すのも恐ろしい。

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初任務当日、あたしは集合場所である第二演習場にいた。
少し来るのが早かったらしく、まだ誰も来ていない。

…暇だし修業でもしよう。
やることがないときは、いつもその結論に陥る。
何もしないでいるくらいなら、何か有益になることをしたほうがいい。
今日もそのパターン。
いつものように、あたしは印を結んだ。
「伝心法!」

木々を越え、自分の意思を無にして、意識を木々をこえた先に集中する。
そうしたら、沢山の人の心の声が一度に聞こえてくる。


そこからさらに一点に絞り、それだけを捉えることを、最近あたしは練習しているのだ。
もっともっと、遠くの誰かの声を…波の片隅に、その声が響いたのはそう思っていたときだった。

【あの天才が憎い・・・分家の癖に・・・!!】

そくりと、背筋が震え上がる。
足が震えて立っていられない。
誰か、誰かこの身体を封じ込めて。

怖い。

コワイ。

あの声、間違えるわけがない。

あの声、は。


「舞衣?」

後ろから、突然その声は響いた。
その瞬間、痙攣しそうなほど、身体が震える。
耳鳴りが、頭の中からし始める。

…でも、あたしはその声が、【彼ではない】ということに気づいていた。
だから、ゆっくりと、振り返る。
…案の定、其処には心配そうにあたしを見るネジがいた。

「どうした?顔色悪いぞ…大丈夫か?」
「あー…うん、大丈夫だよ。ちょっと修業してたら、嫌な心を見ちゃったんだ。もう、大丈夫」

へらっと笑って見せたら、この人はきっと納得してくれるだろう。
お願い、立ち去って、どうせ気づいてくれないんでしょう?

「・・・大丈夫、だから。こっちを見ないで」

そう言ってから、あたしは止まった。
すとんと、ネジがあたしのすぐ後ろに座ったのだ。
背中合わせの状態、と言うのが正しいだろう。

「…ネジ」
「見なければ、いいんだろう?」

…なんで、此処に居てくれるんだろう。
何かつんとしたものがこみあげてくる。
悲しくもない、苦しくも無くなったのに、一体どんな理由で泣くのだろう?

…嗚呼、そうだ。
きっとこれは。少しでも気づいたことから為る嬉し涙。

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それから全員が揃うころには、身体の震えは収まっていた。
ネジがずっとそばにいてくれたからかもしれない。
あの嫌な予感も、綺麗さっぱりではないけれど、確かになくなっていた。

そして、今日も集合時間より前に集合していたあたしたちを見て、彼は嬉しそうな表情で、笑った。
「我ら第3班の記念すべき初任務は宝探しだ!」
「「「・・・は?」」」

あたしたちがぽかんとしながら声を揃える中、リー1人だけが「うおぉー!凄いですね!」とはしゃいでいた。
この3日で何があったのだろう。
髪がおかっぱで服装が全身緑と化したリーを見て、呆れた声を出さずにはいられなかった。

任務は初任務だがCランク。
あたしたちの演習の成績が良好だったからだろう。
内容は、波の国の近くにある島国、星の国にあるらしい宝を探すというものだ。

星の国…そこが、ただの星型にかたちどられた島ならまだいい。
ものすごく、嫌な予感がするのだ。
普通の人なら気にも留めないであろう、些細な疑問と不安。
いきなりそれが訪れる前に、あたしは問うた。

「先生…そこ夜は真っ暗とかじゃないですよね?」
「ん?あぁ森に囲まれていて闇だが…どうした?」
「!!…い、いえ…」

嗚呼、終わった。
心の片隅でそう思いつつ、あたしは先生に「なんでもないです」という笑みを見せた。

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――なんとなく、離れてはいけないような気がした。

『・・・大丈夫、だから。こっちを見ないで』

本当ならばあの場で、「そうか、ならば勝手にしろ」とでも言い放って、立ち去ってやりたかった。

それをしなかったのは、今日の夢が引っかかるからか。

…わからない。

ただ、あの夢と同じ事態になってはいけないような気がした。

嫌な予感がする。

もう後戻りが出来ないどこかへ、連れて行かれてしまいそうな気がする。


「舞衣」

…不思議なほど、すんなりとその名前が言葉となった。

「舞衣」

何故だろう、何故自分は、この名前を無意味に、ひたすら呼んでいるのだろう。

「舞衣」

分からない、分からない、それでも。

それでも、今、こうして名前を呼び続けていないと、彼女が消えてしまう気がした。


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