二羽の鳥が羽ばたいて

□1.はじまりの朝
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離れることを知らない鎖束。

赤い涙、白い包帯。

囚われた少女は、ひどく優しげに微笑んでいた。

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今日の朝は少し違う。
そう、ネジは心の中でふと思った。

昨日、アカデミーをトップで卒業し、今日はいよいよ未熟だが忍として、生きるための班編成が為される。
今年は卒業生の人数が三の倍数ではないから、どこかがフォーマンセルになるらしいがどうなるのだろう?
…いや、そんなことはどうでもいい。
足手まといさえいなければいいのだ。

ネジは、新品の額宛を巻こうと、鏡に立つ。
卍をかたちどられた緑色に光る不気味な印。
…朝目が冷めれば、嫌でも見ることとなるそれが、ネジの視界に入った。


――もう、手遅れよ。


「・・・?」
一瞬、過去の記憶とは一切関係のない光景が、ネジの脳裏に警告のように見えた。
鎖に繋がれた少女、包帯で覆われた目のあるはずの場所、聞き覚えのある声…。
…どこかで、そんな夢を見たことがあって、たまたま今、それを思い出したのだろうか?

考えることを止め、ネジは靴を履く。
最後に、誰もいない日向家を出た。

引きずり続けている憎しみを抱いて。

****

昨日まで同じ教室にいた者たちはもちろん、よそのクラスの者もいた。
周りが緊張やこれからの期待で、ザワザワとしている中、ネジは適当な席を探す。

「あ…」

思わず、声が漏れた。
風に揺れる長い茶色の髪。
琥珀色をした綺麗な瞳には、蒼い空が微かに映っている。

―――ああ、夢の中の少女は、アイツだったのか。

ネジは漸く合点がいった。

あえて、彼女の後ろの席に座る。
そして、彼女と同じく、その蒼い空を眺めだした。


どのくらい見ていただろう、高らかな声が耳に届き、ネジは漸く我に帰った。
前を見ると、アカデミーの教員であるイルカが、ここにいる人の名前を口にしている。
どうやら、もう班編成の発表がされていたらしい。
前にいる少女を見ると、彼女も我に返ったのか、前を向いている。
彼も、耳を澄ませた。

「第3班!日向 ネジ、テンテン、ロック・リー、美瑛 舞衣!この班は特別4人だな」

美瑛 舞衣…その名前にドクンとネジの鼓動が早くなった。


美瑛 舞衣。
その名前こそが、少女の名前。
美瑛一族の親戚にあたる名門、美瑛一族の分家で、彼女は美瑛始まって以来の天才と言われ、周りは彼女を語るとき、「分家であることが惜しい」と口々に言っていた。
くの一クラスをトップで卒業したという話も聞いている。

いや、それだけじゃない。
彼女は、ネジにとって、希望。
傷つけられてもなお、翼をはためかせていく彼女は、彼の、光。

誰にも気づかれない程度の微笑を、ネジは浮かべた。
しかし、すぐにその笑みは曇った。

(…?)

何故だろう。
会話はもうずいぶんしていないはずなのに、何故だか会話をしていたような気がするのだ。
いや、会話だけじゃない。
ずっと近くにいたような…そんな気がしてならないのだ。

ネジはその不自然な疑問により、しばらくはその場を動くことが出来なかった。
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