二羽の鳥が羽ばたいて

□9.迷宮直走
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サクラに呼び出されたのはその次の日のことだった。
女子ご用達甘栗甘、あたしの前には新製品らしい、抹茶ドーム。
甘いものが苦手なあたしでも、美味しくいただけるほどよいお菓子だ。
そして、あたしの目の前にはサクラ。
サクラは、同じく新製品である苺ドームを頬張っている。

何口か食べ、湯飲みの中のお茶を少しだけ飲んだ後…サクラは、ずいっと身をこちらに乗り出してきた。

「で、ネジさんと何があったんですか?」
「…っ…な、なんでネジだと思うの?」
「毎日、ネジさんと一緒に練習に来ていたのに、ある日突然ばらばらに来るようになったじゃないですか」

…この子、本当に鋭い。
いや、きっとこういうことには誰だって敏感なんだろう。
ただ、当事者(あたし)が、気づいていないというだけで。

「…あたしが、やっぱり悪かったのよね」
「え?」
「…いくら任務とはいえ、幼馴染とはいえ…ネジにつらい思いさせちゃったわ」
「…はい?」
「あたしがはっきりしなかったのも悪いのよね…ああ、もっと線引きしておけば…」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

サクラが、あたしの肩をがっと掴んだ。
どうやらまたあたしは、自分の世界に行ってしまっていたらしい。
我に返してくれたサクラに、あたしは一言お礼を言ってから、しっかりと彼女に向き直る。
「…そうよね、話さなきゃ、駄目よね」

奢ってもらってしまった抹茶ドームの対価を、払う必要があるのだから…。

****

ざっくりと話し終わった後、サクラは失笑した。

「う〜わ〜…ネジさん、やるわね…」
「おかげであたしは混乱状態よ…」
「まぁ、確かにそんなことがあったら、誰だって混乱しますよね…」
「さて、それでは舞衣さんに質問です」
くっと、サクラは残りのお茶をすべて飲み干す。
そして、それを机に置いてから、あたしをじっと見つめた。

「ネジさんのこと、恋愛感情として好きなのかは分からないって、さっき言ってましたよね?」
「…うん」
「じゃあ舞衣さんは、リーさんとネジさんを同じ眼で見ることが出来ますか?」
「それは…っまぁ…ネジは幼馴染だし、そりゃあ見る目も少しは…」
「・・・質問、変えますね。
じゃあ舞衣さんは、ネジさんが…そうね、あそこに座っている女の子と実は付き合っていたりしてたら・・・どう思いますか?」

サクラが見ている方向に、チラッと目を向けてみる。
待ち合わせをしているのだろう。
ちらちらと腕時計で時間を確認しながら、二人席の片側に座る女の子。
薄紫の花がちりばめられた着物が、その子に良く似合っている。

「あの人が待っている相手は、ネジさんかもしれませんよ」
サクラが耳元でそう呟く。

…想像してみよう。
やってくるネジ、あたしには気づかず、あの女の子のほうに歩いていく。
笑いあう二人、ネジは女の前に座り、二人で話し続ける。

しばらくして、二人は手を繋いで店を出て行った。
幸せそうに、ずっと笑い合いながら。
二人だけの世界を作って、時々じゃれあいながら歩いていく。
後ろのあたしに、気づかずに。

「舞衣さんっ!」
突然、どこかから声が聞こえて、あたしは眼を覚ました。
「・・・サクラ…」
「…舞衣さん、あっち、見て」
サクラが指差した方向を見る。
さっきの女の子は、ネジではない別の男の人と向かい合って笑っていた。

「…良かった」
自然と、その言葉は漏れた。
あれが現実だったら、きっとあたしは今頃発狂しているだろう。
未だにずきずきと疼く胸を、そっと抑える。
それと同時に、またサクラが唇を動かした。

「…舞衣さん、今、苦しいですか?」
「・・・とても」
「舞衣さんがこのままはっきりしなかったら、今の想像はいつか現実になるかもしれませんよ」
がくんと、視界が歪んだ。
「ネジさんがいつまでもあなたの隣にいてくれるとは限らないんです。
…舞衣さんが、ちゃんと捕まえておかなくちゃ」

にこりと、サクラが微笑む。
なぜか彼女のほうが、あたしよりも数段大人に見えた。
「出過ぎた発言をしてごめんなさい。
劇…頑張りましょう!一緒に!」

遠くなるサクラの背を、ぼんやりと眺める。
さっきサクラから貰った沢山の言葉が、脳の中で乱反射し続けていた。
「・・・あたし次第、か」
ぼんやりと、曖昧だった感情が形を帯びていく。
それはひどく甘い色をしているように見えた。
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