第一部

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私は最近また『変化の術』を練習し始めた。
やっぱり毛嫌いするのは良くないし、そもそもこの術は私が『い組』に行くのに必要なんだから。
蓮華様に何度も頼みこんで毎朝一時間だけ練習に付き合ってもらえることになった。

「もっと集中しろ!」

「むー…。」

「頭の中でもっと鮮明に変化したいものを想像するんだ。」

「んー…。」

手を合わせぐっと集中するものの何も変化は起きない。
頭の上で烏が一羽「かー」と鳴いた。

「うるさいっ!」

足元の石を拾い烏に投げつけるもひらりとよけられる。
私の様子を見て蓮華様は頭を抱え縁側に座った。
その横では桜ちゃんが磯さんから買った紅いお茶を飲んでいる。

「どうもうまくいかねぇな。」

「もう練習始めて、ひぃ、ふぅ、みぃ…。」

「あぁ!もう!数えないで!」

指を折って日にちを数える桜ちゃんに私は耳を押さえた。

「そもそも楓、変化くらい僕にだってできるよ。」

そういうと桜ちゃんは立ち上がり、傘を開くとくるくるとまわした。
傘を下したときに目の前にいたのは桜色の髪をもつ桜ちゃんではなく、黒い髪に獣の耳を持った『私』だった。
傘を肩にかけ、ふふんと私、いや桜ちゃんは鼻を鳴らす。

「どうよ。」

「えぇーすごい!うわーほんとに出来た!師匠!師匠と呼ばせてください!」

「よろしい。」

桜ちゃんは腰に手を当てるとこういう。

「こーんなことだってできちゃうんだから。」

「?」

くるりと後ろを向くと桜ちゃんは蓮華様に歩み寄り、右肩に両手を置く。
そして蓮華様の耳元で

「楓、今晩寝たくないの…。」

「「!!」」

次の瞬間桜ちゃんの頭に鉄拳が落ち、元の桜ちゃんの姿に戻った。

「いたーい!」

「…桜ちゃん。」

「蓮華!なにもそんなにむきにならなくても…。」

「…お前が悪い。」

頭を撫でながら桜ちゃんはまた縁側に座るとお茶を一口飲んだ。

「そもそもさぁ、楓はなんで『変化』の練習なんてしてるの?別に無くても生きていけるでしょ。」

「それは…。」

「それは?」

「…。」

口ごもる私に蓮華様が何を思ったのか。
す、と立ち上がり私たち二人を見た。

「そろそろ朝飯にするぞ。」

桜ちゃんは理由を聞きたそうにしていたけれど蓮華様が背中を押して部屋に入れた。
桜ちゃんには悪いけど私にはとてもありがたかった。
私が『い組』に行きたいだなんて話したら桜ちゃんはどう思うのか。
そんなこと考える必要もない。
分かり切っているのだ。

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