第一部

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「ただいまー。」

「おかえり、桜ちゃん。」

桜ちゃんがこの家に住みはじめて早3か月。
季節はすっかり冬で雪こそまだ降らないもの、水仕事が辛くなってきた。

桜ちゃんは学問所生活をすっかり満喫している。
『は組』は良くも悪くも他人の過去を気にする人は少ないので、友達もたくさんできたようだ。
寺子屋にも学問所にも通わなかった私は毎日楽しそうに友達の話をする桜ちゃんがちょっと羨ましい。

そういえば、桜ちゃんと一緒にあのカエルの所で働いていた人たちは、私がさせてしまった怪我も完治して、今は蓮華様の紹介でお風呂屋で働いている。
家にもたまに遊びに来るのだが、何故か私を『姐御』と呼ぶのが気に掛かる。

私はと言えば、相変わらず蓮華様から任された依頼を受けながら家事という生活。

帰宅した桜ちゃんとお茶をしながら居間で談話していると、蓮華様が入ってきた。

「そろそろ磯が帰ってくるけど、何か欲しい物はあるか?」

「イソって誰なの?」

桜ちゃんはきょとんとした顔をして尋ねてきた。

「磯さんは行商人でね、大陸中を廻ってる人なの。珍しい物いっぱい持ってきてくれるんだよ。」

「へー。」

桜ちゃんはどこか遠い所を見ながらお茶をすすった。異国の物を思い浮かべてるのか。

「で、どうする。」

「私は干物だけでいいです。桜ちゃんは?」

「そう聞かれても『は組』と『に組』以外になんて行ったことないからなぁ。」

「じゃあその場で決めればいいな。」

そう言うと蓮華様は自室へと戻っていく。その姿を目で追いながら桜ちゃんは不思議がっていた。

「なんで事前に聞いておくの。その人が来るならその場できめればいいじゃん。」

「無理、無理。会えば分かると思うけど。」

私は手を振りながら笑った。桜ちゃんは腑に落ちないといった顔でせんべいにかぶりついた。でもすぐに明るい顔になって「思い出した」と手を叩いた。

「小豆がついに告白したんだよ!」

「え?!ついに!」

小豆ちゃんとは桜ちゃんと同じ学問所に通う小豆洗いの女の子だ。ずっと片思いをしていて、桜ちゃんは相談に乗ってあげていたらしく最近はその話題で持ちきりだった。

「成功したんだよ!いいな、僕も恋したーい。」

この通り桜ちゃんは色恋事の話が好き。
今は男の子として生活しているが、女の子の面が残ってしまったようで、身につけている物も男の子としては派手だ。
だけど、そこがまた女の子には評判のようだけれど。

「ねぇ、蓮華は恋人いないの?」

「さぁ、聞いたことないけど。」

「蓮華高収入だし、美形だし、モテそうなのに。」

「…私がいるから女の人連れて来れないのかも。」

「そんなんじゃないでしょ、ま、表面的な性格に難有りだからね蓮華は。」

そんなことないのにな、と私はするめをしゃぶった。

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