第一部

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肩までの桜色の髪。白い肌を映えさせる藍の着物。間違いなく『桜』だった。

しかし唯一違っていたのは表情。写真のあの柔らかい表情はなく、険しいものだった。私…僕の問い掛けにも、その表情のまま答えた。

「楓さん、ですか?」

「はい、すみません。お待たせしてしまったようで。」

仏頂面のまま彼女は言う。
「いえ、私も着たばかりなので構いませんが、それより見てください。」

彼女の指が店頭の行列を指した。

「平日だというのにこの人だかり。せっかく楓さんとお茶するのに、これでは並んで終わってしまいます。ごめんなさい楓さん。私のせいで…。自分が腹立たしいです。」

「い、いえ。わた…僕がもっと早く着て並んでおけばよかっ…」

僕の言葉は行列を店内から割って出てきた高らかな中年男性の声でかき消された。

「いやいや、楓さんお待ちしておりましたよ。」

訳が分からず固まってしまった。
この店に来たのは初めてだし、店主と顔見知りな訳でもない。
後ろにいる桜もきょとんとした顔をしている。そんな僕に店主はそっと耳打ちした。

「蓮華様から先程ご連絡を頂きましたよ。なんだって調査ですって?そういうことならご協力は惜しみませんよ。」

店主はそういって僕の手を引いたので、急いで桜をよんだ。
その時彼女は目を輝かせて満面の笑みを浮かべた。

店の一番奥の席に落ち着くと桜は机に肘をついて身を乗り出し溌剌と言った。

「楓さんすごいですね。ここのお店予約はしないから並ばないと入れないのに…。よくいらっしゃるんですか?」

いや、ちょっとした伝手がありまして…と答えながら今朝の会話を思い出した。
『今日桜とどこで会うんだ?』
という蓮華様の言葉を。

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