第一部
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「髪切ったんです。なかなか似合ってるでしょ?」
くるりと一回転して少し髪をつまみおどけてみせた。
蓮華様はくすりとも笑わなかったけど。
「なんで。女がそんな短髪じゃみっともないだろ。」
世間では何故か女は長髪と決まっている。男は自由なのに。現に蓮華様は腰までの長い髪を一つに結いている。男らしくもなんともないのが、癪だった。
「みっともなくなんてありません。逆にすっきりしていていいじゃありませんか。」
「着物はどうした。そんないいやつ買う金ねぇだろ。」
「こ、これは呉服屋のおじさんが貸してくださったんです。明日『桜』とお茶しに行くから…あ。」
蓮華様は親指と人差し指を眉間にあてて、お得意の長いため息をついた。
この仕草の後はかならず説教される。
「だから変化をもっと練習しておけば…。」
『変化の術』は子供が初めてできるようになるような初歩的な術。けれど私にはどうしても出来なかった。
「あれは私には出来ないことなんです。あんなものいりません。だって今『男の子』に見えるでしょ?」
「『い組』に行きてぇなら、鬼に化けなきゃならねぇよ?そしたらどうやって鬼になるんだ?紙で作った角でも被るか?」
思わず言葉につまって『うっ』と低い声がでた。
蓮華様は少し勝ち誇ったような顔つきで『着物汚すなよ』とだけ言って部屋に戻っていった。
口喧嘩に勝てずにむしゃくしゃしたから舌を思い切りだしてあかんべしたら、無言で戻ってきてゴツンとげんこつを落とした。
あまりに腹がたって夕食に蓮華様の嫌いなトマトを出したら、また打たれた。