第一部

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大きな黒い耳に、何故か3つの不揃いな尻尾。
磯に連れてこられた少女はあの時から『は組』に居座っていた。
今はお手伝いとして、蓮華の家に暮らしている。
楓と言う名も蓮華につけてもらった。
部屋で簡単な服に着替え、ふう、と軽く溜息をつくと家事の続きを始める。
毎日がこんな風に過ぎていく。

この事に気付いてから、楓はついつい自分について考えてしまう。
今はこうして暮らしているが、元は捨て子の身。
捨て子というには育ちすぎていた自分に疑問は絶えない。記憶がないからだ。前に一度、蓮華に自分について尋ねたこともあった。
なんせ蓮華はこの『は組』を任され、さらには、東の国でも仕事をしていると、町の人に聞いたことがあったからだ。自分のような子を一人くらい知っていてもおかしくない。
しかし、蓮華はそんなことを知る必要はない。となんとも悲しそうな顔で答えるのみだった。
あの時は蓮華に対して怒りを覚えたが、今になれば、蓮華は過去に何か嫌な思い出があるだろうことが分かる。きっと自分に気を遣ってくれているのだろう。
でも私は私なのだ。知りたいという気持ちは、泉のように湧き出て溢れる。
だから、もう一度頼んでみたいと思ったのだ。

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