第一部
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「蓮華様は鬼に違いない。こんな過酷な『ろうどうかんきょう』はない。」
少女は埃っぽい町の中をぶつぶつ文句を言いながら歩いている。
手に握られたメモ用紙を何度も確認して一軒の店へ足を踏み入れた。
「あら、楓ちゃん。お使い偉いわね。」
「お使いじゃありません。仕事何です。酷い『ろうどうかんきょう』の。」
「あらあら、難しい言葉知ってるのね。」
まあね。と楓と呼ばれた少女は先程まで大切に持っていたメモ用紙をふくよかな店主に渡した。
この店は相変わらず匂いが酷い。酸っぱいような、苦いような喉に張りつくような匂い。
始めは鼻を摘んで駆け込んだものだが、今ではもう慣れっこだ。
「はい、楓ちゃん。お駄賃も入れておいたからね。」
「わあ、ありがとう。」
両手で酒を持ち、お駄賃のイカを頬張りながら楓は家路についた。
「ただいま帰りましたよー、と。」
「遅い。遅すぎる。」
玄関で待ち伏せていた蓮華は不機嫌そうに腕を組み、楓をき、とにらみつけた。
怖いというより、綺麗な睨みっぷりに楓は息を詰まらせた。しかし、ここはしゅんとして見せかけ、
「…すいませんでした。」
荷物の酒を蓮華に無理矢理渡すと、一目散に部屋へと走り去る。さもないと鉄拳がおちてくるからだ。