シリアス長編創作

□立ち止まる場所
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「……。」


いつの間にか、シオンはディアーナの部屋の前にいた。

…よく花を持ってここに来た。

いつだって喜ぶ顔が迎えてくれて。

その顔をいつか自分だけのものにしたいと願った事もあった。…今思うと何ておこがましいのだろう。

自分にはそんな資格は無いだろうに。

こんな自分が、光に焦がれたのは当然だったのかもしれない。

でも、光が闇を求めることなどありはしないだろう。

彼女に似合うのは、同じ光。

…自分ではないから。




「……。」




暫く彼女の部屋の扉を見詰めていたシオンはゆっくりと踵を返し、戻ろうとした。

――その背にかかる静かな声。



「…シオン。」



シオンはぎくりとして動きを止めた。

自分の名を呼ぶ声。

何より聞きたくて、そして聞きたくなかったもの。

―ディアーナ、だ。



(どうしてこんな所に居る?)



こんな時間に、どうして彼女が部屋の外に居るのだ。

舌打ちを洩らしたい気分になりながらもシオンは彼女に声を返した。


「…姫君が、起きてていい時間じゃないぜ。」

「眠れなかっただけですわ。」

「あ、そ。じゃ、早く部屋に帰るんだな。冷えるぜ?」


そう言って、行こうとした彼をディアーナは呼び止める。



「シオン。わたくしに何か用があるんじゃありませんの?」

「別に? …通りがかっただけさ。」

「…どうしてこっちを向きませんの。」

「……。」



無言のシオンにディアーナはぎゅっと拳を握り占める。


「…とにかく早く戻りな。」

「…嫌ですわ。」



涙が出そうになるのを必死に堪えながらディアーナは力いっぱい叫んだ。

「戻ってなんかあげませんわ! シオンのバカ!」

叫んで走り出したディアーナにシオンは驚く。

「…姫さん?」

振り返り、一瞬躊躇しながらも、彼は走るディアーナの後を追った。
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