シリアス長編創作
□もがく思考
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…小さな音に、シオンは思考の内から連れ戻される。
小さな音。何かが、もがくような…。
不思議に思ったシオンは辺りの茂みを掻き分けてみる。すると樹の根元に、傷付いた小鳥が一羽蹲っていた。
…猫か何かにでも襲われたのだろうか。
片羽をひくつかせて動く小鳥をシオンはそっと捕まえた。
シオンが呪文を唱えると、淡い光が彼の手の中の小鳥を包む。やがてその光が消えると、小鳥は小さく身動ぎした。
そして何回か羽を羽ばたかせると彼の手の中から飛び立って行く。
飛び去る小鳥を見送り、シオンは自分の手に視線を落とす。
右手に巻いた包帯の上に、小さな赤い染みが一つ。
…今の小鳥のものだろう、血。
白の上にのるそれはひどく鮮烈で。
「………。」
あえて治さなかった自分の傷から、また何かがじわじわとしみ出てくる気がした。
―彼女も、こうして自分に手を差し伸べてくれるだろうか。
自分が欲しいと言えば、側に居てくれるだろうか?
…いいや。そんな風に求めてはいけない。
自分が触れたら彼女の白い手に染みがつく。
それが何よりも嫌だったのだ。
「………ディアーナ。」
彼女の部屋を見あげながら呟くのは…名前。
最初で最後の、最愛のものを呼ぶ声は、応える者を得る事無く…風と共に花を揺らした。