パラレル創作

□Dose it follow that?
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「ねぇねぇ、キール。」

学校で、話し掛けてきた芽衣にキールはひどく緩慢な動きで答えた。

「…何だ。」

「レポート! 終わった? 参考にちょーっと見してくんないかなー。」

「断る。」

きっぱりそう言うと、芽衣を置き去りにしてすたすたと歩き去るキール。

あまりに、けんもほろろな対応に芽衣は少しむっとした顔をする。

「ちょっとー、待ちなさいよ。一度は手伝ってくれるって言ったじゃん。」

早足で追いついて来た芽衣をキールは一瞥する。

「…遊びに行く奴のなんか手伝えないって言っただろうが。」

「だから何も手伝って、とは言ってないでしょ。ちょっと、どんなふうにやったか見せてよ。」

「嫌だね。」

「あ〜! もう、本気で心が狭いんじゃない、キール!!」

芽衣の言葉に、キールは足を止め彼女に向き直ると大きな声で叫んだ。

「どうせ俺は心が狭いさ!」

さすがに芽衣も驚いて唖然とした表情でキールを見詰め、目をぱちぱちさせる。

「…キール?」

「…見たいんだったら他の奴に見せてもらえばいいだろう。」

何処ぞの『あいつ』とかなと心の中で付け加えてさっさと踵を返す。

残された芽衣は不可解そうにキールの後ろ姿を眺めながら呟いた。

「…何、あいつ…。機嫌悪…。」





それから数日、ずっとそんな日が続いた。

何だか、いつもに増して芽衣の方はキールに用があるようだったが、キールの方は徹底的に彼女の事を避けていた。

いや、避けていたというのは語弊があるかもしれない。

ただ、これまでのことが積もり積もって一つも解決していない。それがキールのイライラを呼び、いつも以上につっけんどんな対応になってしまうのである。

―放課後。

その日、いつものように図書館に行こうとしたキールは、図書館の入り口の前に芽衣が居るのに気づいた。

「……。」

無言で相手を見ると、芽衣はこちらに向かって手を振ってきた。

「やっほー。ちょっといい?」

「…よくない。」

そっぽを向くようにして答えると、芽衣は自分の眉間を指して溜め息を洩らした。

「あーもー、どーしたのよ。この頃いつもにも増してここに皺寄ってるわよ。」

余計なお世話だと言わんばかりの顔で返すと向こうは軽く肩を竦めて見せる。

「っとに、何なのよ。あたし、何かした?」

溜め息混じりの、芽衣のセリフ。でもそれはキールの怒りに火をつけるのには十分すぎるものだった。

「…しただろうが。」

「え? 何?」

本当に分からないのだろうか。きょとんとした表情で聞き返してくる芽衣にキールは努めて静かな声で言った。

「聞いたぞ。お前、この間の日曜日には学園祭に行かなかったんだろう?」

「…あ。」

キールの言葉に、しまったという顔をする芽衣。

でもそれはちょっとした悪戯を見つけられた子供のようで、まったく悪びれた所が無い。

ちっとも深刻さを感じさせないその表情にキールは益々腹が立ってきた。

「ああ、ごめん。あれはさー、…あー、後で説明するけど、それより…。」

「別に聞きたくない。」

照れたように笑って、頭を掻く芽衣にキールは冷たく言い放つ。

「…キール?」

「退けよ、そこ。通るんだから。」

そんな冷ややかな態度は芽衣の眉根を顰めさせた。

しかしキールは気にしない。いや、止まらない。

「…ちょっと、何よ。その言い方。」

「邪魔だって言ってるんだよ。早く退け。」

そう繰り返すと、困惑と怒りを綯い交ぜにした表情で芽衣の方も声を荒げる。

「何なのよ、一体!! 少しはあたしの話も聞きなさいよ!!」

「結構だ。…嘘つきの話なんか聞きたくない!!」

「…な…っ!」

あまりに辛辣な一言。

絶句した芽衣の横をキールは強引にすり抜けようとする。

彼女の横を通り、図書館の扉に手をかけた彼のその背に、いきなり何かが叩きつけられた。

「勝手なことばっかり言わないでよ!! あんたなんか大っ嫌い!!」

芽衣は力いっぱいに叫ぶとそのまま走り去ってしまう。

暫く彼女が行ってしまった方を見ていたキールだが、ふと我に返って下に落ちた包みを何だろうかと拾い上げた。

今の衝撃でだろうか。袋を止めてあったシールが浮き、ほとんど剥がれた状態になっている。

キールはどうしても気になってそっと袋を開けて中を覗き込んで見た。

中には、小さなカードと四角い包装紙に包まれた何かが入っている。

キールは取り出したそれを見て、我が目を疑い、言葉を失った。

カードには、芽衣の『お誕生日おめでとう!』の文字が躍っていた。

「………。」

信じられない思いでもう一つの四角い包みを開ける。

細長い、長方形のビロードのようなもので飾られた箱。

「…これ…。」

キールはそれを開き中身を確認すると、掠れた声を出した。

箱に収められていたのは一本の万年筆。

見覚えのあるそれは、彼にとってとても懐かしいものだった。









『Xデー』
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