「ええ、そうですの。」
この学院の高等部きっての名物三人娘(ただし本人達、自覚に乏しい)はいつものようにホームルーム前のちょっとした空き時間におしゃべりを楽しんでいた。
その中の、桜色の髪を結った少女――ディアーナが突然何か思い出したような顔になって鞄の中から二通の封筒を取り出したのだ。
それは、サークリッド家で行われるクリスマス・パーティーの招待状であった。
「はい。二人の分ですわ。どうぞいらしてくださいね。」
にこにこと言うディアーナに栗毛の少女――芽衣が目をぱちくりとさせた。
「…また、ずいぶんと気が早くない?」
「そうですかしら?」
「そーだよ。まだ十月に入ったばっかじゃん。」
「でも、いつもこれくらいに招待状を配るらしいんですの。」
「…らしいって?」
相手の言い回しに金色の髪の少女――シルフィスが首を傾げる。
「うんと、わたくしも参加するのは今年が初めてでよくは知らないんですの。」
「何それ? 自分とこのパーティーでしょう!?」
「だ、だってこのパーティーは十六歳にならないと招待してもらえないんですもの!」
驚いて声を上げた芽衣にディアーナは叫び返した。
何でも、このパーティーはイブの24日の夜から25日の朝まで夜通しで行われるもので、お子様は参加不可、ということらしい。
「だからわたくし、とっても楽しみにしていましたの。」
堂々とお兄様公認で夜更かしできますのよと言うディアーナに芽衣は苦笑を洩らす。
「あー…。アンタんとこ、うるさそうだもんねー。」
「でも今年はわたくしも参加できますのよ! ですから二人もいらしてくださいませね。」
得意そうに胸を張るディアーナに二人は笑って頷いた。
「はい。喜んで行かせて頂きます。」
「あたしもー♪ もっちろんおいしい物でるわよね?」
「大丈夫だと思いますわよ。あ、そうそう。二人とも。」
その呼びかけに、招待状を手に席に戻ろうとしていた二人が振り返る。
「はい?」
「何よ?」
「それはペアの招待券ですから、よろしかったらどなたか誘ってきてくださってもよろしくてよ。」
「ペア?」
「ええ。パーティーのエスコート役の方を。」
芽衣の問い返しにディアーナが頷くとシルフィスが少し驚いたように瞳を瞬かせた。
「エスコート役って…それじゃあ…。」
「もちろん、そんなに堅苦しい席ではありませんからパートナー無しの一人でも全然構いませんわ。」
「…パートナー…。」
「…エスコート…。」
そう呟きながら招待状を改めてじっと見ている友人達にディアーナはきょとんとした。
「…どうかしましたの?」
「え!? いや、あはは! 別に何でも!!」
「き、気にしないで下さい。」
慌てて手を振り、首を振る二人。
「あー。えっと、ディアーナは? 誰かアテあるの?」
「…わたくし? 考えていませんでしたわ。」
ディアーナはうーんと腕を組んで考えるポーズをとる。
「いなくていいと思ってましたけど。お兄様もいつもお一人で行かれますし。」
「そうなんですか?」
「ええ。お友達と一緒らしいですから。わたくしもそのつもりでしたけど…。」
…二人は、どなたかと?
そう訊かれて芽衣もシルフィスもぶんぶん首を振った。
「いないいない。そんなのいないって。」
「…そうですね。いれば素敵ですけど。」
芽衣は乾いた笑いを洩らし、シルフィスは小さく苦笑した。
「…素敵といえば…お姉さまが何か言っていらっしゃいましたわ。」
「何をですか?」
また何か思い出したように言う彼女にシルフィスが尋ねる。
「ええと、恋人同士で参加すると素敵な事が起こるとか何とか…。」
何でしょうと不思議がるディアーナ。それをうけて芽衣が肩をすくめてみせた。
「…恋人ねぇ。あたし達にはまだ早いってか?」
「ふふ。そうですね。」
「…でも! いつか王子様と一緒に参加したいですわね。」
「おお! そーよね!! …どっかにいい人いないかな!?」
ディアーナが胸元に手をやり、目をキラキラと輝かせると芽衣も力強く頷いた。
「芽衣ならすぐに見つかりますよ、きっと。」
「えー? それをいうならシルフィスの方が!」
「あう…二人だけにできてわたくし置いていかれそうですわ。」
「そんなことはない。」
「ないですね。」
そんなことをわいわいと話していると先生がやって来て、一同は慌てて席についたのだった。